初年度に引き続き、既存の電子顕微鏡のシステムを利用してより低加速での電子照射実験を行った。特に、従来進めていた200kVの条件との比較のために、既存のシステムで最も低加速の条件である20kVで電子線照射損傷について検討した。その結果、電子照射後の蛍光スペクトルの積分強度の電子照射量依存性のグラフにおいて、eGFP試料の損傷には2種類の過程があることを示唆する結果を得た。200kVの条件では見えていなかったが、低加速での電子照射の際、照射電子強度が弱くなってしまうことにより、照射による強度減衰が比較的ゆっくりと起こる過程の光計測しかできなかったことから新たに明らかになった知見であり、200kVにおいても、比較的電流密度の小さな条件で比較実験を行い、同様な結果が再現された。 試料損傷のし易さを電圧200kVの場合と20kVの場合で比較すると、2つの損傷過程の内、損傷の遅い過程においては、20kVの場合に臨界ドーズの値が1桁程度小さく、損傷が速い過程では20kVの場合に臨界値が1桁程度大きいという結果が得られた。 遅い損傷過程は、高加速で壊れにくいことから、イオン化等に関連した発光種の構造的な破壊に対応し、速い損傷過程は低加速で壊れ壊れにくいことからノックオンによる破壊に関連していると考えられそうである。今後、更なる詳細な検討を行う予定である。 20kV以下の更なる低加速の条件での実験についてはRHEED装置を利用して実験を行っている。光検出のために放物線ミラーを自作して進めているが、目的としている1~3kV程度の低加速条件では、電子線密度を十分にとることができないため、十分な強度のカソードルミネッセンスの計測に成功しておらず、再現性のあるデータの取得には至っていない。光学系の調整を継続的に行って、電子線損傷の定量的評価を目指す予定である。
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