研究課題/領域番号 |
17K19518
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
安房田 智司 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (60569002)
|
研究分担者 |
守田 昌哉 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (80535302)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
キーワード | 精子 / 精漿 / プロテオーム分析 / 交尾 / 精子競争 / カジカ科魚類 / スズキ目 / トゲウオ目 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「交尾」や「精子競争」に伴って進化した精子や精漿の分子基盤を解明することである。そこで、近縁種に異なる繁殖生態を持つ魚類を対象に、野外潜水調査、生理学的手法、生化学的手法を用いて、精子や精漿の研究を行った。平成30年度は、(1)3魚種の野外調査と精子の運動性や形態の観察と(2)全ゲノム解析とRNAシーケンスを行った。 (1)3魚種の野外調査と精子の運動性や形態の観察:非交尾種であるスズキ目スズメダイ科のクマノミとナガサキスズメダイ、交尾種であるメバル科のシロメバルについて野外調査と精子計測を行った。これらの結果に昨年度までに採取したデータを加えた計10魚種の近縁種間で交尾種と非交尾種の精子特性を比較した結果、魚類の精子は交尾の進化に伴い、頭部が細長くなり、体内環境での運動性を獲得するとともに体外での運動性を消失したことが明らかとなった。これらの成果はこれまで知られていない新しい報告である。 (2)全ゲノム解析とRNAシーケンス:これまで、MALDI-TOF Massを使用した質量分析により、カジカ科魚類の精漿タンパク質の同定を試みたが、他魚種のデータベースでは同定が困難であった。そこで、カジカ科魚類のゲノムデータベースを作成するため、精漿タンパク質に大きな違いが認められた交尾・卵寄託型のアサヒアナハゼの全ゲノム配列の決定を行った。次世代シーケンサーを用いた配列の決定まで終了した。次に、全ゲノム解析と並行してRNAseqの準備を行った。カジカ科魚類の繁殖期と非繁殖期に野外採集を行い、精巣をRNA Laterで保存した。必要なサンプルは本年度で全て揃えた。 一連の成果は国内外の学会や講演会で発表を行った。また、魚類精子の最適な固定方法、カジカ科魚類の特異な繁殖生態、カワスズメ科魚類やホヤの精子関連タンパク質の機能については学術論文で発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究内容の(1)3魚種の野外調査と精子の運動性や形態の観察について:野外調査と精子の分析が必要であったクマノミのデータが揃ったことに加え、交尾種のシロメバルや非交尾種のナガサキスズメダイについても分析することができた。これにより、スズキ目近縁2科スズメダイグループ(非交尾種:クマノミ、スズメダイ、ナガサキスズメダイ;交尾種:ウミタナゴ)、スズキ目近縁2科カサゴグループ(非交尾種:キリンミノ;交尾種:カサゴ、シロメバル)、トゲウオ目近縁2科クダヤガラグループ(非交尾種:チューブスナウト、シワイカナゴ;交尾種:クダヤガラ)の計10種の精子の比較解析を行うことができた。交尾の進化に伴い精子の頭部が細長くなること、交尾種の精子は体内環境での運動性を獲得するとともに体外での運動性を消失すること、精子の全長や遊泳速度は交尾の進化とは無関係であり、むしろ精子競争が関係していること、など興味深い結果が得られた。これらの結果は、カジカ科魚類の交尾種と非交尾種での精子の種間比較を行った結果とも概ね一致しており、海産魚類における交尾に伴う精子の進化の一般則が見えてきた。本研究による成果は脊椎動物の交尾行動と精子の進化について新たな知見をもたらす大きな進展と言える。 研究内容の(2)全ゲノム解析とRNAシーケンスについて:今年度は、カジカ科魚類1種の全ゲノム配列の決定とRNAseqのためのカジカ科魚類複数種の野外採集を終えた。これはほぼ当初の予定通りであり、来年度に向けた準備を整えることができたと言える。 以上より、研究代表者にとっては専門外のチャレンジングなテーマではあるものの、分担者、連携研究者、学生らと協力することで、今年度の研究は当初の予定通り順調に進んでいると判断される。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29-30年度の研究により、野外での対象魚種の観察と採集は終了した。平成31年度(令和元年度)は異なる繁殖様式を持つカジカ科魚類の精子と精漿に含まれる交尾種(非交尾種)特異的、もしくは交尾種(非交尾種)で多く発現するタンパク質や遺伝子の同定を行う。 平成30年度は交尾・卵寄託型のアサヒアナハゼの全ゲノム配列の決定を行った。マクロジェンに依頼し、Chromium法によりライブラリを作成し、次世代シーケンサーHiseqを用いて配列の決定を行うところまでは終了している。平成31年度はシーケンサーから得られたリード配列を用いてゲノム配列の再構築後、遺伝子のアノテーションを行う。完成した配列をデータベースとしてMALDI-TOF Massで分析した精子・精漿タンパク質の同定を行う。脊椎動物が普遍的に有する精子・精漿タンパク質をカジカ科魚類も利用していると予測しているが、未知のタンパク質の可能性もある。 また、異なる繁殖様式を持つカジカ科魚類の精巣のRNAseqにより、精巣で繁殖期特異的に発現している精子・精漿タンパク質のRNA配列を決定する。RNA抽出を行い、マクロジェンに配列の決定を依頼する。これまでにカジカ科魚類3種の脳を用いて予備的にRNAseqを行っているため、精巣のRNAもすぐに分析を始められる。最終的に、アサヒアナハゼの全ゲノムと複数種の精巣のRNA解析を進めることで、精子や精漿タンパク質の同定ができると考えている。また、得られた同定結果から機能解析を行うことも考えている。「交尾」行動は、脊椎動物に限られるものではなく、節足動物、軟体動物など様々な分類群で出現している。そのため、本研究により得られる成果は、脊椎動物に留まらず、他の分類群の研究者にも大きなインパクトを与えると考えている。3年間の成果は、投稿論文や学会発表などで速やかに公表する予定である。
|