研究課題
左心室の心筋と右心室の心筋は、それぞれが第一心臓領域と第二心臓領域と称する胚発生上は異なる起原の前駆細胞から発生する。胚発生においても、マウスES細胞を用いた実験室レベルでの心筋分化誘導においても、この二つの細胞集団はお互いに均一に混ざり合うことはなく、各々がクラスターを形成する。この事実と、修正大血管転位症で体循環を担う本来は右室である心室が、長期経過で体循環を支えることができなくなり心不全に陥る事実から、研究代表者は右心室と左心室の心筋は元々本質的に性質が異なるとの独自の作業仮説をたてた。本研究計画では、この作業仮説を検証することを目的とした基盤研究を展開する。左右心室心筋を遺伝学的なマーキングで区別できるよう遺伝子改変が施されている独自に開発したマウスES細胞(BAC Tbx5-CreERT2/R26R-eYFP ES細胞)を用いて、環境要因による後天的差異が生じないようにin vitroで心室心筋を分化誘導し、得られた右室心筋と左室心筋の(1)網羅的遺伝子発現プロファイル、(2)網羅的蛋白発現プロファイルと、(3)力学特性、について検証する。現在まで、研究代表者が平成28年度まで在籍していたロンドン大学メアリ女王校で、当研究で使用するBAC Tbx5-CreERT2/R26R-eYFP ES細胞を樹立した。日本へと持ち帰ったこのES細胞株を、現在の所属施設における研究環境下で、研究に用いるためのベストな状態、すなわちナイーブな基底状態たる多能性を保持したまま維持培養する培養条件を検討し、最適化を行なった。現在、心筋分化条件の最適化を行なっている。
3: やや遅れている
研究計画に従い実験を開始したが、以下に述べるような不測の事態に直面したこと、研究に参画する人員の不足から、やや進捗が遅れている。英国で維持培養と心筋分化の条件が最適化されていたマウスBAC Tbx5-CreERT2/R26R-eYFP ES細胞を、日本で手に入る材料(培地、血清や薬品を含む)を用いてまずは維持培養を試みたところ、未分化性や心筋分化能に大きな劣化を起こす事態が発生した。そこで、まずは培地に用いる材料を一つ一つ検証し、心筋分化能を有する多能性幹細胞としての維持培養プロトコールの最適化を行い、これを完了した。次に、英国で最適化した心筋分化プロトコールにて心筋分化を試みると、分化の途上で強い細胞死が惹起されてしまい、心筋分化に至る前に細胞が死に絶えてしまう事態に直面した。現在、このプロトコールの最適化作業中である。英国で手に入る材料を用いた場合よりも、日本で手に入る材料を用いた場合は分化のスピードが2日ほど遅くなり、英国で最適化された条件設定では、分化誘導するための増殖因子を用いた刺激が最適なタイミングで行われなくなってしまっていたこと、および、培地に加える添加物のロットによっては全く適さないことが、現在までに把握している細胞死の原因と考えられた。
心筋分化誘導のプロトコールの最適化を終了次第、右室心筋と左室心筋をセルソーターを用いて分別し、遺伝子発現プロファイル、蛋白発現プロファイル、そして力学特性の測定に着手する。人員の不足を解消するために、積極的に大学院生のリクルートも行う。
不測の事態により研究計画に遅れが生じた分だけ実施できなかった実験(遺伝子発現プロファイリングと蛋白発言プロファイリング)に相当する実質支出が減り、次年度使用額が発生した。このまま研究計画が進行すれば、計画通り、遺伝子発現プロファイリングと蛋白発言プロファイリング等を含む実験に対する支出として使用される計画である。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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