左心室の心筋と右心室の心筋は、それぞれが胚発生上は異なる起原の前駆細胞から発生する。胚発生においても、マウスES細胞を用いた実験室レベルでの心筋分化誘導においても、この二つの細胞集団はお互いに均一に混ざり合うことはない。臨床上も右室心筋が左室心筋のように長期間の高い圧負荷に耐え得ないことを示唆する症例を経験知ることから、右心室と左心室の心筋は元々本質的に性質が異なるとの独自の作業仮説をたてた。本研究計画では、この作業仮説を検証することを目的とした基盤研究を展開した。左右心室心筋を遺伝学的なマーキングで区別できるよう遺伝子改変が施されている独自に開発したマウスES細胞(BAC Tbx5-CreERT2/R26R-eYFP ES細胞)を用いて、環境要因による後天的差異が生じないようにin vitroで心室心筋を分化誘導し、得られた右室心筋と左室心筋の(1)網羅的遺伝子発現プロファイル、(2)網羅的蛋白発現プロファイルと、(3)力学特性、について検証を要素項目目標として掲げた。 研究機関中に、研究代表者の研究施設の移籍、広く普及したマウスES細胞維持培養方法に潜在する問題に起因したES細胞株の変調、COVID-19による研究活動自粛など不測の事態により、研究計画そのものは約1年強ほどの遅延を生じてしまった。オリジナルのES細胞株BAC Tbx5-CreERT2/R26R-eYFPは、結局は使い物にならなくなってしまったため、トランスジェニックマウス胚盤胞からの再樹立を余儀なくされた。現在、再樹立作業が完了し、当初の計画通り、in vitroの分化誘導で得た左室と右室心筋のRNA-seqによるデータ取得、リン酸化タンパクプロファイリング、および力学特性の測定に向かって準備を行なっている。研究機関終了後も継続し、研究を完遂する。
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