研究課題/領域番号 |
17K19525
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
永井 健治 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (20311350)
|
研究分担者 |
岡野 圭子 (今井圭子) 関西医科大学, 医学部, 講師 (90454610)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
キーワード | 自発光植物 / 発光バクテリア / ラン藻 / 光合成 / ゼニゴケ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、発光バクテリアの発光タンパク質(バクテリアルシフェラーゼ)を蛍光タンパク質と融合させて発光特性の高輝度化と多色化を実現し、発光基質の生合成系遺伝子群とともに植物に導入することで人工自発光植物と開発することである。最終的には、発光色の最適化により、自ら放つ光で高効率に光合成を行わせ、太陽光に依存しない人工光合成デバイス、さらには電気エネルギーを必要としない照明デバイスを世界に先駆けて創出することを目的とする。発光バクテリアは、唯一発光基質合成系に係る遺伝子群が全て同定された生物で、すでにluxオペロン(発光遺伝子群)のタバコへの導入が行われているが(Plos One 2010)、目視可能な明るさには達してはいない。一方、ラン藻は、高等植物と同じ酸素発生型の光合成を行う原核生物であり、形質転換が容易であり、相同組み換えによる形質転換法が確立されている。そこで本研究では、発光バクテリアPhotorhabdus Luminescenceのluxオペロン(発光遺伝子群)を用いて、①発光バクテリアルシフェラーゼの高輝度化を進め、②発光関連遺伝子群(lux遺伝子群)をラン藻に導入して自発光ラン藻を作成する。さらに③自発光ラン藻の発光強度を最適化し、④自発光ラン藻の光合成活性を評価する。最終的に、⑤発光遺伝子群のゼニゴケと高等植物への導入を行い、人工自発光植物を作成する。またすでに作成済みにゼニゴケについては、光合成活性を測定する。バクテリアルシフェラーゼを蛍光タンパク質と融合させて高輝度化を目指したが、発光基質生合成系とともに植物に導入しても、目視できる発光強度には達しなかった。そこで、⑥糸状菌の自発光システムを解明し、植物に導入することで高輝度な自発光植物を作成することを目指した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①発光バクテリアルシフェラーゼの高輝度化と多色化は昨年度に黄緑色蛍光タンパクを発光タンパク質luxAとluxBに融合させ、従来よりも6倍明るい輝度を示している。②昨年度、自発光関連遺伝子群(luxCDABE)をラン藻に導入しluxABとluxCDEを別々に導入した系統より50倍程明るい自発光ラン藻を得ている。③luxCDABEと黄緑色蛍光タンパク質をラン藻に導入し共発現させたが、輝度の向上は認められなかった。luxCDABEをIPTG誘導型高発現プロモーター制御下で発現させた結果、輝度が4倍程度向上したが、目視可能な明るさには達しなかった。⑤発光遺伝子群をゼニゴケと高等植物への導入を行い、人工自発光植物を作成することには成功したが、目視できる輝度には達しなかった。またReNL(蛍光・発光融合タンパク質)発現植物体においては、光化学系II依存的な酸素発生が誘導されることが示唆されている。⑥糸状菌の発光システムが報告されたので(Kotlobay et al., PNAS 2018)、このシステムに関わると考えられる遺伝子群(HispS、H3H、Luz、CPH、PPTase)のクローニングを行い、これら5つの遺伝子をベンサミアナタバコ葉で一過性発現を誘導し、発光を確認できた。また、これら5つの遺伝子のうち、4つを発現させたものでは、CPH以外を全て発現させたものとPPTase以外を全て発現させたもので、弱い発光活性が認められた。このことは、これら2つの遺伝子は、発光には必須ではないものの、発光活性の亢進に寄与するか、あるいはベンサミアナタバコがこれらの活性を内包していることが考えられる。これらの遺伝子を自己切断型ペプチドを間にタンデムにつなげ植物に導入したが、発光は観測できなかった。植物では複数の遺伝子に対して自己切断ペプチドが効率よく機能していないことが考えられる。④自発光ラン藻の光合成評価は蛍光・発光融合タンパク質による輝度向上後に行う計画であるため進捗はなし。
|
今後の研究の推進方策 |
⑥糸状菌の発光遺伝子群をタンデムにつなげた場合、自発光が確認できなかったので、一つの遺伝子を一つの発現ユニットとして設計し(一つの遺伝子に一つのプロモーターとターミネーター)、複数の植物発現用ベクターに分け、タバコの一過性の共発現により自発光を計測する。自発光を確認後、⑤設計した糸状菌由来の発光遺伝子群をゼニゴケへ導入し、輝度・光合成の評価を目指す。④自発光ラン藻の光合成評価を酸素電極を使い確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
バクテリアルシフェラーゼを蛍光タンパク質と融合させて高輝度化を実現したが、発光基質の生合成系と共に植物に導入しても、目標に掲げた目視できる発光強度を有する組換体が得られなかった。そこで糸状菌の発光システムを用いる戦略へ方向転換したため、研究計画にやや遅れが生じ未使用金が生じた。次年度、この研究をより完成度の高いものにするための実験に使用する試薬購入、及び、成果発表・論文投稿を行う経費に使用する。
|