本研究の目的は、基本的な生命現象の一つである蛋白質の膜透過の力を高速原子間力顕微鏡(高速AFM)で測ることである。原核生物の膜透過反応は蛋白質膜透過チャネルであるSecYEG複合体を介して起こり、SecA ATPaseが基質蛋白質と相互作用しながら、ATP加水分解を伴う構造変化をすることで駆動される。膜透過反応の力学的特性を評価するために、ナノディスク(ND)とSecY-SecA融合蛋白質を用いてSecYAEG-NDを構築した。SecYの細胞外側をビオチン標識し、測定基板にストレプトアビジン(STV)を用いることで、SecYAEG-NDの膜表面が測定基板に対して水平となり、SecAが上部に位置する向きでの固定が可能となった。 前年度は測定基板としてSTV二次元結晶を用いていたが、結晶の調製が煩雑であることなどの問題があったので改めて基板を検討した。検討の過程で、マイカ基板ではSecYAEG-NDの膜表面が基板に対して垂直となり、SecYAEG-NDが横たわった状態で固定できることを発見した。これにより、膜蛋白質を二方向から高速AFM観察することが可能となり、新たな手法として査読付き学術誌に報告した。一方、問題点は基板をビオチン-OSuで修飾し、STVを介してSecYAEG-NDを基板に固定することで改善された。次に、カンチレバーに結合可能な基質蛋白質(proOmpA)の調製に取り組んだ。アミノシラン処理したカンチレバーを、グルタルアルデヒドを介してproOmpAと架橋するために、リジンから成るポリペプチド鎖を持つGFPを付加したproOmpAの発現系を構築した。proOmpAをunfoldした紐状の状態で得るために尿素存在下で精製したところ、高純度の精製産物を得た。今後は、精製したproOmpAと修飾したカンチレバーを架橋したものを用いて、膜透過の力を測定する予定である。
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