研究課題
弾性線維は、伸び縮みする組織(皮膚・動脈・肺など)に多くあって、その伸縮性を担う細胞外マトリックスである。皮膚のたるみだけでなく、心疾患予後悪化因子である動脈中膜硬化、高齢者の主要疾患である肺気腫も弾性線維の劣化・断裂が直接原因と考えられているため、弾性線維の劣化予防と再生は高齢化社会における極めて重要な課題である。しかし弾性線維のターンオーバーは極めて遅く、弾性線維の再生は困難と考えられてきた。弾性線維形成には(1)ミクロフィブリルという線維の束が形成され、(2)エラスチンタンパク質がミクロフィブリルに沈着し、(3)エラスチンどうしが架橋される、というプロセスがある。我々はこれまでの研究で、それぞれのプロセスに必須のタンパク質(特にFibulinファミリー分子とLTBPファミリー分子)があることを明らかにしてきた。本研究では、まずこれら弾性線維形成因子の中で加齢組織において不足するものを見出す。次に弾性線維形成因子を組み合わせて効率よく弾性線維を再生できる方法を開発し、生体内での弾性線維再生、弾性線維を持つ培養人工皮膚・血管の作製を目指す。本年度は、加齢組織で弾性線維形成がおこらない原因の特定を行った。弾性線維を新しく形成できるのは若齢の組織だけであるとされている。しかし、なぜ加齢組織に弾性線維形成能がないのかはわかっていない。ここ十数年の申請者らの研究により、Fibulin-4, 5、LTBP-2, 4など弾性線維形成の鍵となる分子が見つかってきたが、加齢組織ではこれらのうちで不足しているものがあることが考えられる。ヒト皮膚サンプルを収集し、弾性線維形成因子の免疫染色を行った。また、培養線維芽細胞が作る細胞外マトリックスの弾性・粘弾性を測定するための装置を作成し、計測の条件検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
本学形成外科、富山大学皮膚科、音羽病院形成外科から手術後余剰皮膚組織の提供を受け、Fibulin-4, 5、LTBP-2, 4、エラスチン、Fibrillin-1、コラーゲンtype Iの蛍光免疫染色を行った。皮膚光老化に特徴的な日光弾性線維症において、エラスチンの沈着を認める一方、正常な弾性線維形成に必須の因子のうち不足しているものを見出した。培養細胞と細胞外マトリックスが一体となったシートを作成し、シート上に乗せた鉄ビーズに磁界を加えて動かし、加えた力とレーザー計測したビーズの変位量のグラフから弾性、粘弾性を計測できることを確認した。
加齢皮膚において失われる弾性線維形成因子は、症例数を増やすこと、免疫染色だけでなくmRNAレベルやタンパク質レベルで半定量することによりより確度の高いデータを得る予定である。細胞外マトリックスシートの回収はまだ歩留まりが低いため、実験手法を改善していく。シートの厚さを測定する方法も確立する予定である。
消耗品使用量が予定を下回ったため。持ち越しは少額であり、次年度無理なく使用する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件)
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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