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2017 年度 実施状況報告書

脳内寄生虫トキソプラズマの感染による記憶改変メカニズムの解明

研究課題

研究課題/領域番号 17K19538
研究機関帯広畜産大学

研究代表者

西川 義文  帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 教授 (90431395)

研究期間 (年度) 2017-06-30 – 2019-03-31
キーワード感染症 / 中枢神経系 / 記憶 / トキソプラズマ
研究実績の概要

本研究の目的はシナプス関連因子Arcに着目したトキソプラズマ感染による記憶改変メカニズムの解明であり、平成29年度は「Arc遺伝子発現を改変する原虫因子と宿主因子の同定」について研究を実施した。
Arc遺伝子の発現制御にはその上流の転写因子(CREB, SRFなど)の関与が示唆されるため、それぞれのシグナルに対応するルシフェラーゼレポーター解析系(293T細胞を使用)を構築した。本解析系に40種の原虫遺伝子を導入して活性化レベルを比較したところ、CREBシグナルに関与する原虫因子2種類、SRFシグナルに関与する原虫因子6種類を見出した。これら候補原虫遺伝子を神経細胞株へ導入しArc発現の変化を解析したところ、Arc発現レベルを上昇させる2種類の原虫遺伝子を同定した。
これら2種類の遺伝子に加えてその他1種類の遺伝子を含めた合計3種類の遺伝子についてCRISPR-Cas9システムによりそれぞれ遺伝子欠損原虫株を作製した。遺伝子欠損原虫株の細胞侵入能・脱出能、増殖率の性状解析を行ったところ、親株原虫と比較してこれら表現型に顕著な差は認められなかった。次に、3種類の遺伝子欠損原虫株と親株原虫をマウスへ感染させ、病原性試験と記憶能力の判定のために恐怖条件付け試験を実施した。病原性試験では、親株原虫と比較して病原性が増加した遺伝子欠損原虫株は2つ、病原性が低下した株は1つであった。病原性に影響しない原虫感染量で恐怖条件付け試験を行ったところ、親株原虫が記憶能力が減少するのに対し、記憶能力に障害を与えない傾向を示す遺伝子欠損原虫株を一つ見出した。
遺伝子欠損原虫株の標的遺伝子について、免疫沈降法と質量分析により宿主細胞由来の結合タンパク質の解析を進め、現在までに候補因子を一つ同定した。この因子については、コンプリメント原虫株での原虫因子との結合も確認している。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成29年度の進捗状況を以下に示す。
(1)神経細胞の網羅的トランスクリプトーム:RNAseq法による初代神経細胞のトランスクリプトームを実施した。原虫感染による発現変動遺伝子のGene Ontology解析を行ったところ、免疫や代謝関連の遺伝子が発現上昇し、細胞内脂質代謝、細胞内輸送、鉄イオン反応に関する遺伝子の発現が減少していた。また、原虫感染によるArc遺伝子の発現上昇も認められた。
(2)Arc遺伝子発現を改変する原虫因子と宿主因子の同定:ルシフェラーゼレポーター解析系により、Arc遺伝子発現に関わる原虫因子の候補として6種類選定した。その内の2種類については、神経細胞への遺伝子導入によるArc発現の増加が認められた。対象遺伝子に対する遺伝子欠損原虫株3種を作製し、病原性試験と記憶能力の判定試験を実施した。病原性試験では、親株原虫と比較して病原性が増加した遺伝子欠損原虫株は2つ、病原性が低下した株は1つであった。病原性に影響しない原虫感染量で記憶能力の判定試験を行ったところ、記憶能力に障害を与えない傾向を示す遺伝子欠損原虫株が一つ確認され、この対象遺伝子がトキソプラズマ感染による記憶改変メカニズムに関与する可能性が示唆された。
(3)その他の実績:トキソプラズマの感染急性期にはうつ様症状を発症することをマウスの感染モデルで明らかにした。この発症には、宿主の炎症反応による脳内のキヌレニンの産生が関与しており、脳内の炎症反応と記憶能力との関連性を調べる必要性が提示された。
以上より、平成29年度に計画した「Arc遺伝子発現を改変する原虫因子と宿主因子の同定」はほぼ終了しており、当初の計画通りおおむね順調に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

平成30年度は「記憶を制御する宿主因子の解析」に関する研究を進める。
質量分析により同定した宿主タンパク質の機能として、原虫因子と複合体を形成してArc発現を調節する(a)、あるいは原虫因子による宿主因子の機能阻害(b)が想定できる。まず、CRISPR-Cas9システムなどを用いて神経細胞(細胞株、初代培養株)から当該遺伝子を欠損させ、アゴニスト存在下あるいは原虫感染下でArc発現およびArcにより制御されるグルタミン酸受容体の発現レベルや局在を解析する。(a)の場合は感染の有無でArc発現に影響せず、(b)の場合は恒常的にArc発現に影響すると予想される。さらに、RNA-seq法による網羅的トランスクリプトーム解析を行い、対象遺伝子が関与する細胞内反応の全貌を明らかにする。
質量分析あるいは網羅的トランスクリプトーム解析により絞られた候補遺伝子について、遺伝子欠損マウスを導入あるいは作製する。遺伝子欠損マウスを用い、感染実験と行動測定を実施する。さらに、マウスの脳組織について神経伝達物質の測定と病理組織学的解析を行い、候補遺伝子の欠損による脳組織の変化を比較する。(a)の場合は感染マウスでも記憶・学習能力、神経回路の機能に欠陥は認められず、(b)の場合は恒常的に脳機能に影響すると予想される。上記の解析結果を総合し、当該遺伝子が記憶形成に重要な宿主因子であると判断する。
上記の研究を進めることで「トキソプラズマ感染による記憶改変メカニズム」の解明を目指す。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (2件)

  • [雑誌論文] Transcriptional profiling of Toll-like receptor 2-deficient primary murine brain cells during Toxoplasma gondii infection2017

    • 著者名/発表者名
      Umeda K, Tanaka S, Ihara F, Yamagishi J, Suzuki Y, Nishikawa Y
    • 雑誌名

      PLoS One

      巻: 12 ページ: e0187703

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0187703

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] マウス初代脳細胞におけるトキソプラズマ感染へのCCR5 依存的応答に関するトランスクリプトーム解析2018

    • 著者名/発表者名
      梅田剛佑、小林薫、猪原史成、田中沙智、山岸潤也、鈴木穣、西川義文
    • 学会等名
      第87回日本寄生虫学会大会
  • [学会発表] トキソプラズマ慢性感染期の脳病態と宿主の行動変化におけるToll-like receptor 2 の関与2018

    • 著者名/発表者名
      猪原史成、田中沙智、西村麻紀、梅田剛介、西川義文
    • 学会等名
      第87回日本寄生虫学会大会
  • [学会発表] Toxoplasma gondii 感染下におけるToll-like receptor 2 欠損マウス脳細胞のトランスクリプトーム解析2017

    • 著者名/発表者名
      梅田剛佑、田中沙智、山岸潤也、鈴木穣、西川義文
    • 学会等名
      第86回日本寄生虫学会大会
  • [学会発表] マウスのうつ様症状におけるトキソプラズマ感染に対する宿主防御免疫の関与2017

    • 著者名/発表者名
      Motamed Mahmoud、Ragab Fereig、西川義文
    • 学会等名
      第86回日本寄生虫学会大会
  • [学会発表] Studies on mechanism of fear memory impairment in mice infected with Toxoplasma gondii and its specificity2017

    • 著者名/発表者名
      Fumiaki, Ihara, Maki, Nishimura, Yoshikage, Muroi, Mahmoud, Motamed, Hidefumi Furuoka, Naoaki Yokoyama, Kisaburo Nagamune, Yoshifumi Nishikawa
    • 学会等名
      The Toxoplasma gondii research community biennial meeting 2017
    • 国際学会
  • [学会発表] ホストを操る寄生虫:トキソプラズマ2017

    • 著者名/発表者名
      西川義文
    • 学会等名
      第25回分子寄生虫学ワークショップ/第15回分子寄生虫・マラリア研究フォーラム合同大会
  • [学会発表] トキソプラズマのサイクロフィリン18 の宿主生体防御に対する作用とその機構2017

    • 著者名/発表者名
      梅田剛佑、西川義文
    • 学会等名
      第25回分子寄生虫学ワークショップ/第15回分子寄生虫・マラリア研究フォーラム合同大会
  • [学会発表] 神経細胞を用いたトキソプラズマのステージ転換を制御する分子機構の解明2017

    • 著者名/発表者名
      猪原史成、西川義文
    • 学会等名
      第25回分子寄生虫学ワークショップ/第15回分子寄生虫・マラリア研究フォーラム合同大会
  • [学会発表] トキソプラズマのサイクロフィリン18が宿主・寄生虫相互作用において果たす機能2017

    • 著者名/発表者名
      梅田剛佑,猪原史成,西川義文
    • 学会等名
      第63回日本寄生虫学会・衛生動物学会北日本支部合同大会
  • [学会発表] Toxoplasma gondii (T. gondii)デンスグラニュル蛋白7(GRA7)による宿主細胞内制御機構の解明2017

    • 著者名/発表者名
      檜森結羽,猪原史成,梅田剛佑,西川義文
    • 学会等名
      第63回日本寄生虫学会・衛生動物学会北日本支部合同大会
  • [学会発表] ホストを操る寄生虫:トキソプラズマ(Host manipulation by parasite,Toxoplasma gondii)2017

    • 著者名/発表者名
      西川義文
    • 学会等名
      分子生物・生化学会合同大会ConBio2017
    • 招待講演
  • [備考] 西川研究室

    • URL

      https://sites.google.com/site/nishihdlab/

  • [備考] 原虫病研究センター

    • URL

      http://www.obihiro.ac.jp/~protozoa/index.html

URL: 

公開日: 2018-12-17  

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