研究課題/領域番号 |
17K19540
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
堂浦 克美 東北大学, 医学系研究科, 教授 (00263012)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | プリオン / 脳神経疾患 / 病因論 |
研究実績の概要 |
プリオン病の病原因子プリオンは、正常型プリオン蛋白(PrPc)が構造変化し多量体化して凝集体を形成した異常型プリオン蛋白(PrPSc)であることは、今日では世界中の研究者が認める常識となっている。しかし、申請者は奇妙な現象を発見した。これまでに実施されていなかったハムスター馴化プリオンをPrPc欠損マウスに脳内接種すると、非炎症性脳病変が生じ死に至った。このマウスにマウス馴化プリオンを脳内接種しても発病しないことは既報の通りであり、このハムスター馴化プリオンを野生型マウスに脳内接種しても発病しないことも既報の通りであった。本研究では、この奇妙な現象の裏にどのような病因が潜んでいるのか、また、その病因がプリオンとどのように関連しているかを調べることで、プリオンと呼ばれる凝集タンパク質が原因と考えられている疾患の病因論を再考察することを目的としている。本年度は、上記の病変を生じたマウス脳材料を用いて病原因子の疾患伝播性を調べる実験を行った。発病マウスの脳ホモジネートを、別のPrPc欠損マウスの脳内に接種し、疾患が伝播されるかどうかを観察した。また、病原因子の化学的特性を解析する実験を行った。発病マウスの脳ホモジネートを、プリオンが耐性を示す各種滅菌処理とプリオンが感受性を示す各種滅菌処理を行い、各処理に対して病原因子がどの程度の耐性や感受性を持つかを、処理した脳ホモジネートを別のPrPc欠損マウスの脳内に接種して発病を観察した。両実験とも評価の途中段階にあり結論は出ていないが、当初の計画通りに研究は進捗している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
疾患伝播性を調べる実験を実施した。すなわち、ハムスター馴化プリオンで発病したPrP欠損マウスの脳を採材し、生理食塩水を加えてホモジナイズした後に軽遠心を行い上清を回収して接種用の脳ホモジネート試料とした。それを、別のPrPc欠損マウスの脳内に脳ホモジネート試料を接種し、疾患が伝播され発病するかどうかをマウスを日々観察して調べた。報告段階では、伝播による発病は確認されていないが、引き続き観察を続けている。また、病原因子の化学的特性を解析する実験を実施した。すなわち、プリオンは紫外線・熱・ホルマリン・酸・アルコールなど通常の滅菌処理には耐性で、グアニジン・フェノール・強アルカリ・SDS煮沸といった強度なタンパク質変性処理には感受性があるため、ハムスター馴化プリオンで発病したPrPc欠損マウスの脳内に存在する病原因子が、これらの様々な処理に対してどの程度の耐性や感受性を持つかを、処理した脳ホモジネートを別のPrPc欠損マウスへ接種して調べた。この実験も、報告段階では、いずれの処理を施した脳ホモジネートの接種に関しても発病は確認されておらず、引き続き観察を続けている。
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今後の研究の推進方策 |
伝播による発病が確認され次第、発病マウスの脳ホモジネート試料を作製し、別のPrPc欠損マウスへ接種する実験を繰り返し実施し(継代実験)、接種から発病までの潜伏期間・臨床症状・神経病理像(部位別のグリオーシスや神経細胞脱落や神経網変化の程度)を解析し、これらの所見を指標にして疾患の表現型に変化がないかどうかを調べる。継代実験は3回までを目途として予定している。また、病原因子の[株]現象が維持されるかを調べる実験を行う。すなわち、PrPc欠損マウスで継代される病原因子が、[株]としての性格を保持していることをハムスターPrPc発現マウスの脳内に接種実験を行い、元々のハムスター馴化プリオンと同様な表現型を示すかどうか(トレースバック現象)を、上記指標に加えて、脳内に蓄積したPrPScのタイプを解析して調べる。また、試験管内でのPrPSc増幅実験(PMCA)を行う。PMCAは試験管内でPrPScを増幅する手段であるが、発病したPrPc欠損マウスの脳を材料としてPMCA反応を行い、基質として反応系に加えたPrPcからPrPScへの形成が起こるかどうかを調べる。さらに、病原性画分を精製し組成分析する実験を行う。塩濃度・界面活性剤濃度等の濃度を調整しながら、密度勾配遠心法やゲル濾過法を活用し、発病したPrPc欠損マウスの脳内に存在する病原因子が高濃度に含まれる画分をPrPc欠損マウスへの接種実験で同定し、精製を進め、精製画分がどのような化学的組成で構成されているかを調べる。これらの実験を通して、プリオンと呼ばれる凝集タンパク質が原因と考えられている疾患の病因論を再考察する。
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