研究課題
肺線維症を始めとする臓器線維化は、線維芽細胞により主に産生される、細胞外基質の過剰沈着により重篤な臓器障害に至る病態である。臓器線維化は慢性炎症疾患に伴い幅広く認められ、個体の老化に伴い発症頻度が上昇することが知られている。慢性炎症や老化は、DNAメチル化変化などのcell-intrinsicな変化、細胞外基質の構築変化、組織内微小環境の変化などの、『場の記憶』をもたらし、細胞や臓器レベルの機能変化に繋がる。しかしながら、線維芽細胞における特異的介入手段の不足のため、炎症に伴い線維芽細胞に刻まれる『場の記憶』、およびそれに伴う機能変化の実態は未だ不明である。本研究では、提案者らの新たな線維芽細胞特異的介入手段に基づき、肺傷害に伴い肺線維芽細胞intrinsicに生じる『場の記憶』の実態、その分子制御機構、肺炎症反応における意義を解明することを目的とした。今年度(H29年度)は、線維芽細胞の由来に依存せず、ブレオマイシン誘導肺線維症における炎症の場によって線維芽細胞に生じる変動を同定するため、脂肪組織または肺より調製した線維芽細胞を傷害肺へと移入し、網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、移入に伴い共通して発現低下する遺伝子としてDcn(Decorin)が見出された。実際に、Dcnを過剰発現させた肺線維芽細胞は炎症抑制能があることが肺への移入系により明らかとなった。H30年度は、ブレオマイシンにより誘導される炎症が収束した後も保持される遺伝子発現変動、ブレオマイシン傷害を再び生じさせた場合の応答の差異をトランスクリプトーム解析を中心として解明することを目指す。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画において、肺傷害に伴い肺線維芽細胞intrinsicに生じる『場の記憶』の実態の解明を目的として設定していた。H29年度までに、線維芽細胞の由来(脂肪組織あるいは肺)に依存せず共通して、ブレオマイシン誘導肺線維症の進行に伴い発現変動する遺伝子として、プロテオグリカンの一種であるDcnがあることが見出された。Dcnが実際に肺線維症病態に対して寄与しているか否かを検証するため、Dcnを過剰発現させた肺線維芽細胞をブレオマイシン傷害肺に対して養子移入した。その結果、炎症初期3日めまでに移入した群ではコントロール細胞移入群と比較して、肺線維症が改善することが明らかとなった。これらの結果により、線維芽細胞の2つの由来に共通して、傷害肺という炎症の場に起因した変化が生じていること、またその生じている変化の一つDcnの発現低下が肺線維症病態を悪化させていることが示唆された。本研究は当初の計画通り、順調に進展していると考えられる。
H30年度は、当初の研究計画どおり、ブレオマイシンにより誘導される炎症が収束した後も保持される遺伝子発現変動、ブレオマイシン傷害を再び生じさせた場合の応答の差異をトランスクリプトーム解析、ChIP-seq解析を中心として解明することを目指す。
当初研究計画においてH29年度に実施することを予定していた、時系列トランスクリプトームおよびChIP-seq解析が、それらの条件最適化検討が当初想定よりも遅延したため実施できず、次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金と合わせ、H30年度は、最適化が終了したChIP-seq解析含めH29-30年度で予定していたトランスクリプトーム・ChIP-seq解析を纏めて実施する予定であるため、当該助成金は当初の計画通り必要である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件)
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