研究課題/領域番号 |
17K19551
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三室 仁美 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (80396887)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 細菌 / 核酸 |
研究実績の概要 |
本研究では、胃粘膜病原細菌Helicobacter pylori (ピロリ菌)の細胞外膜小胞 (Outer membrane vesicles, OMV) への選択的sRNA導入を司る菌体ガイド分子の同定を目指す。さらに、同定したガイド分子が、ピロリ菌OMVへ標的sRNAを封入する活性評価をin vitroにて行い、ガイド分子がどのような条件下で特異的sRNAをOMVに封入するのかを精査する。 当該年度は、まず、ヒトピロリ菌感染症と類似の症状を示すスナネズミ動物モデルにおいて高頻度に胃炎を惹起しうるATCC43504株のゲノム解析およびRNA-seq解析から、すでにsRNAの同定が報告されているゲノム解析株である26695株と共通して保存されているsRNAを同定した。次に定量的PCRにより、これらのsRNAのうち、ATCC43504株において発現量の高いsRNAを複数同定した。また、ピロリ菌OMVを分離し、画分内に含まれるsRNAを定量的PCRにより定量し、全菌体中の存在量と比較して、OMVに特に多量に存在するsRNAを同定した。同定したsRNAの欠失組換えピロリ菌を作出して電子顕微鏡観察に供した結果、ピロリ菌野生株と比較して、産出されるOMV量が大きく異なることが明らかになった。 以上の結果から、同定したsRNAは、OMVに特異的に存在するだけでなく、菌体のOMV量を制御しうる可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたsRNA複合体の密度勾配による単離とRNA-seq解析は、技術的に困難なためまだ実施していない。しかし一方で予定を前倒しして、同定したsRNAの欠失組換えピロリ菌を作出することができた。さらに、電子顕微鏡解析から、同定したsRNAがOMV量の制御にも関与するという新しい重要な知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、まず、同定したsRNAに結合するRNAやタンパク質の同定を行うために、MS2 aptamerが結合する標的sRNAをin vitro translation法により作製する。in vitroにて菌体溶解液と混合してMS2 aptamerとMS2 coat proteinのアフィニティを利用したMS2 coat protein結合maltose binding proteinを用いたビーズによるプルダウンを行い、特異的に結合するタンパク質の有無を精査する。さらに、作製したsRNA欠損変異株等のRNA-seq解析およびiTRAQ解析から、sRNAが特異的に結合して発現を制御するmRNAを同定する。これらの解析から、標的sRNAと複合体を形成するガイド分子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子組換え細菌の作製が予想よりも首尾よく作製できたため、菌体の培養に用いる消耗品を節約することができた。次年度で実施予定のin vitro translationによるプローブ作製費用として使用する予定である。
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