研究課題/領域番号 |
17K19552
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中川 一路 京都大学, 医学研究科, 教授 (70294113)
|
研究分担者 |
津本 浩平 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90271866)
長門石 曉 東京大学, 医科学研究所, 特任准教授 (30550248)
相川 知宏 京都大学, 医学研究科, 助教 (70725499)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
キーワード | A群レンサ球菌 / 低分子化合物 / 単分子抗体 / 機能阻害 / タンパク質相互作用 |
研究実績の概要 |
細菌感染症に対しては多様な抗菌薬が開発されて頻用されているが,多剤耐性菌の出現は臨床の現場を悩ませている。またワクチンの開発も行われているが,制御可能な細菌感染症はごくわずかである。そのため、細菌感染症分野は新たな観点からの制御法が望まれているものの抗菌剤を超える薬剤の開発は進んでいないのが現状である。 本研究では,細菌種の持つ特定の機能分子(付着・侵入に関わる表層タンパク質や金属トランスポーターなど)と生体分子との相互作用,特にタンパク-タンパク間の相互作用に対して阻害能を持つ低分子化合物や短鎖可変領域フラグメント(ScFV)をin vitro、in vivo双方で効率的にかつ大規模に解析するシステムを構築し,新たな細菌感染制御法を開発する基盤となるスクリーニング系の確立と創薬基盤のシーズとなる候補物質を探索することを目的としている。これまで細菌感染に対する治療薬は,その多くは,抗菌剤の探索やワクチンの作成に主眼が置かれていたため,それに替わる薬剤の開発は,現在までのところその糸口はない。本年度は、ゲノム情報を利用したターゲット分子の選定と候補分子の構造解析・機能解析と相互作用をする宿主分子との分子間相互作用の解析を行った。その結果、A群レンサ球菌の表層に存在し、菌株間での保存性の高い分子を選定して、そのリコンビナントタンパクの相互作用解析を行った。その中で、ヘム鉄の取り込みに関わるShr, Shpコンプレックスにターゲットとした。その結果、Shr-Shpの構造解析結果から、ヘムの結合、分子間に結合する領域を特定することができた。そこで、ヘム鉄との結合に関わる領域、Shr-Shp結合に関わる領域について、その相互作用を阻害する低分子化合物とscFVの単離を試みたところ、Shrとヘモグロビンの結合を阻害する低分子化合物の候補が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄の獲得に関わる阻害剤候補としての低分子化合物については、菌の培養系に添加したところ、50 uMの濃度で完全に増殖を阻害することができたことから、創薬分子の候補として期待できる一方、シーズ分子として化合物の側鎖変異体を作成を試みているが、予想された側鎖変異体では活性が十分に発揮できなかったことから、さらに変異体を検討する必要がある。また、その他の低分子化合物については、十分な活性を保持する分子は得られていない。また、単分子抗体については、現在SRPを用いた阻害活性を測定しているが、天然型抗体に匹敵する結合能を示す候補分子が1つ、やや弱い候補分子が2つ取れてきている。現在、これらの大量精製にかかっているため、平成30年度には、in vivoでの活性について検討を進めていきたい。また、1つ問題点として、いまのところShrとヘモグロビンの結合については、SPRとITCを用いた活性の解析はできているが、いまのところ結晶構造がとれていない。様々な条件検討や、部分断片で試みているが、構造の詳細が決定できていないのが現在の問題点である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度では、主にヘモグロビンからの鉄の獲得系の分子を中心に解析を進めたが、現在これ以外にA群レンサ球菌の表層にのみ存在しており、菌株間で保存されている分子として12種類の分子について同様の解析を進めている。これらの分子は、これまでの報告の結果から、A群レンサ球菌感染症の回復期血清で抗体価の上昇が認められる分子も含まれているため、これらの分子についても、特異的に結合する低分子化合物のスクリーニング、および単分子抗体の分離を行う予定としている。また、単分子抗体については、現在ヒトIgGを基本骨格とした合成ライブラリーを用いているが、菌体表層分子は、旧来よりウサギに免疫したときに抗体が取れやすい、ということが報告されているため、免疫ウサギの脾臓からcDNA単離を行ってウサギ単分子抗体の作成も予定している。ウサギ抗体での結合部位(CDR1-3)領域が決定できれば、上記のヒト化ライブラリーにウサギCDR領域を組み込んだ人工抗体も作成可能であるため、さらに特異性をあげる抗体の作成を目指していきたい。
|