研究課題/領域番号 |
17K19555
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森井 英一 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (10283772)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | アミノ酸 / ピルビン酸代謝 / 活性酸素 / 細胞増殖 / 光学異性体 |
研究実績の概要 |
腫瘍細胞に作用するアミノ酸として、セリンに着目した。光学異性体を変換させるserine racemaseが大腸癌で高い発現を示すことから、D-セリンが大腸癌で作用するのではないかと仮説を立てた。しかし、大腸腫瘍におけるD-セリンの含有はほとんどみられず、このことから、光学異性体の制御にserine racemaseは、最初の予想ほど大きな貢献はしていないということがわかった。serine racemaseの発現量と、種々の代謝産物を調べている過程で、serine racemaseの発現量に比例してピルビン酸量が変化することがわかった。そこで、serine racemaseの作用する経路として、光学異性体を変換させる経路ではなく、ピルビン酸を賛成する経路に着目した。serine racemaseをノックダウン、ノックアウトすると、ピルビン酸量が著明に減少した。このことから、大腸腫瘍においてserine racemaseはピルビン酸の産生に重要な役割を示していることがわかった。さらに、serine racemaseは腫瘍の増殖にも重要な役割を果たしており、このノックアウトによって腫瘍の増殖が著明に減弱することもわかった。また、アセチルCoAの産生にも関係しており、ヒストンH3のアセチル化を介して、アミノ酸がepigenetic な遺伝子変異にも関与することがわかった。また、活性酸素の産生にも、serine racemaseが関与していることも明らかにでき、抗がん剤とserine racemase inhibitorを併用することで、腫瘍抑制効果が増強されることも判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アミノ酸の遺伝子発現調節機構を解明する目的で本研究は行われている。本年度はserineに着目し、その光学異性体を変換させる酵素の解析を行った。大腸癌においては、腸内細菌がD-アミノ酸を利用していることから、光学異性体と大腸癌の関係を解析する予定で研究を計画した。しかし、解析の結果、大腸癌はD-アミノ酸をほとんど含有していないことがわかり、研究を光学異性体の転換から、別の代謝物質であるピルビン酸に対するものに変更した。その結果、着目した酵素とピルビン酸代謝が密接に関与することがわかり、さらに、epigeneticな発現制御にも、この酵素が関与することがわかった。アミノ酸代謝が遺伝子発現調節を行うという現象の解明にも寄与できた。また、本酵素はミトコンドリア量も調節するという予想しなかったこともわかり、それから活性酸素の産生にも関与していることがわかった。上記のように、アミノ酸の代謝として、光学異性体に着目して進めていたが、その副産物としてピルビン酸代謝、アセチルCoAの調節、ミトコンドリア調節まで明らかにすることができた。さらに、本酵素の阻害物質が、従来の抗腫瘍剤と併用することで、より強い効果を示すこともわかり、治療への手がかりを得ることもできた。以上のことより、本研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
アミノ酸代謝には、ポリアミンなど多くの生理活性物質が含まれる。これらの物質を網羅的に解析することにより、本研究の目的であるアミノ酸による遺伝子発現調節機構、つまり核内におけるアミノ酸の遺伝子発現に対する新たな機能を見出す予定である。手法としては、これまでと同様、多様な腫瘍細胞株において、ノックアウトやノックダウンの手法を用いて生理活性物質の作用を検討し、最終的には治療の端緒につながるような抗腫瘍効果の検討も行う予定である。
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