研究課題/領域番号 |
17K19557
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 荘 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 准教授 (60619716)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 疾患特異的マクロファージ / 線維症 / 自然免疫 / アレルギー / メタボリックシンドローム |
研究実績の概要 |
全てのマクロファージ・単球、樹状細胞はMacrophage Dendritic cell Progenitor (MDP)から発生することが報告されている。しかし、MDPを移植しても末梢に分化した線維化に関わる新しいマクロファージであるSatMは出現しなかった。そこで、MDPのさらに一段階前の前駆体であるGranulocyte Macrophage Progenitor(GMP)をマウスに移植しfate mappingを行ったところ、末梢に成熟したSatMが出現した。この結果から、SatMはマクロファージ・単球でありながら、GMPの下流にあるMDP以外の前駆体から分化することが明らかとなった。GMPの下流に存在するSatM前駆体を同定するために、再度、骨髄中のSatMが発現しているマーカーを検討した結果、これまでのマーカーに加えて、新しくC5aRやFceRIが発現していることが分かった。そこでこれらのマーカーにSatMを分離するための既存のマーカーであるM-CSFR、Ly6Cを使用して、lineage-ckit-の分画を分けた所、更に複数に分けることができた。それぞれの分画に含まれる細胞の形態をメイギムザ染色にて調べたところ、lineage-ckit-をC5aR+M-CSF1R+Ly6C-FceRI+の分画に存在している細胞集団の形態が、末梢のSatMと似ていることが分かった。さらに、電顕や電顕トモグラフィーを用いた解析からも、2核様の形を所持していることが分かった。そこでlineage-ckit-C5aR+M-CSFR+Ly6C-FceRI+前駆体を移植し、再度fate mappingの実験を行ったところ、末梢にSatMを確認することができた。以上の事から、この細胞がSatMの前駆体であることがわかり、SatM Progenitor (SMP)と定義した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで考えられていたマクロファージの分化の系譜とは異なる経路でSatMが分化してきていることを明らかにした。さらに、この細胞はNfil6の影響を受けて分化することが分かっているが、末梢ではSatMは完全に消失しているので、その作用点はその前駆体にあると考えられる。野生型とNfil6欠損マウスから回収したGMPやMDPの遺伝子発現はパターンはほとんど変化がなかったが、Nfil6-/-SMPの遺伝子発現パターンは、野生型と著しく異なっていることが明らかとなった。 さらにバイオインフォマティックス解析を行ったところ、Nfil6-/-SMPでは細胞死に関わるパスウェイがおかしくなっていることが明らかとなった。そこで、培養したSMPをFACSにて確認した所、Nfil6-/-SMPでは死細胞が野生型よりも増えていることが確認され、さらに、分化能を調べるためにコロニーアッセイを行ったところ、野生型SMPと異なりNfil6-/-SMPは増殖したコロニーの形成がおこらなかった。これらの結果から、SMPでNfil6が作用することによりSatMが分化し、その分化した細胞が線維化発症に必須であることがわかった。これらの研究を論文として報告することができた(Satoh T et al 2017 NATURE)
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今後の研究の推進方策 |
今回の実験の中でこれまで考えられてきたマクロファージの分化の系図とは異なる経路により細胞が分化していることが明らかとなった。そこで、1細胞シークエンスを用いることにより、これまで1集団と考えられていた他の前駆体もより詳細に分けれる可能性があると考えている。例えば、これまでは一種類として考えられてきたGMPであるが、Ly6CとFceRIとを用いることにより、3つの集団に分けることができた。そこで、マクロファージの前駆体集団であるMDPやリンパ球の前駆体集団であるCLP等々の集団もヘテロな集団であるかどうかを含めて、詳細に解析していく予定である。 また今回の実験やこれまでの研究により、発見されて以来1種類しかないと考えられてきたマクロファージであるが、実際には我々の体内には疾患ごとに対応した様々なタイプのマクロファージ”疾患特異的マクロファージ”が存在していることが考えられ、それらは前駆体の段階で異なっていることを明らかにした。これらのサブタイプはその疾患特異性の高さから、それぞれの疾患特異的な細胞を標的として創薬を行えば、副作用の少ない薬の開発につながることも期待される。そこで今後は、病気ごとの新しいマクロファージサブタイプの同定を行っていく予定である。また新しくそれらが同定された場合、その分化の系譜の研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
様々な前駆体を分けるためのFACSの検討に時間がかかっている。また分類できた可能性のある分画をfate mappingにてin vivoで検討を行っているが、その検討にも時間がかかっているので予定していたよりも研究が遅れ、次年度に繰り越すこととなった。使用計画としては、前駆体細胞を回収するために大量の野生型のマウスが必要である。またcell sortingに使用するための消耗品(FACS用抗体、MACSビーズ等)も必要なために、それらの購入を行う。
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