腺組織や神経系を主な標的とするムンプスウイルス(MuV)は、エンベロープ上のHN蛋白質とF蛋白質の働きによる膜融合で細胞に侵入する。すなわち、HN蛋白質がシアル酸を末端に持つ細胞表面の糖鎖受容体に結合すると、F蛋白質が活性化され、エンベロープと細胞膜の融合が起こる。 同じメカニズムで、感染細胞と周りの細胞が膜融合を起こし、その結果、多核巨細胞(合胞体)が形成される。HN蛋白質とF蛋白質の発現によって膜融合を起こさないヒト細胞株Xでは、膜融合に必要なF蛋白質の開裂がほとんど起こっていなかった。しかし、F蛋白質の開裂に関わるとされるfurinの発現や活性に異常はなく、同じくfurinによって開裂される麻疹ウイルスF蛋白質は細胞株Xでも開裂が起こった。一方、furin欠損細胞株では、F蛋白質の開裂や膜融合は起こらなかったが、furinを導入することで開裂や膜融合が起こるようになった。したがって、MuVのF蛋白質開裂にはfurinに加え、他の宿主因子が必要と考えられた。それが何かを明らかにするために、膜融合とF蛋白質開裂を起こす細胞株のcDNAライブラリーを作成し、HN蛋白質とF蛋白質の発現で細胞株Xに融合を誘導できる遺伝子を発現クローニングにより同定した。この遺伝子がコードする蛋白質は構造と機能が類似したファミリーを形成しているが、そのうちの一つは、多くの細胞株では、HNおよびF遺伝子の導入やMuV感染で発現が増加するのに対し、細胞株Xでは元々の発現が低い上に誘導もほとんど起こらなかった。したがって、この分子の存在が、MuV F蛋白質がfurinによって開裂されるために必要であると考えられる。どのようなメカニズムでfurinによるF蛋白質の開裂を可能にするかについては今後さらに研究が必要である。この宿主因子はMuVのトロピズムに関わっている可能性があるとともに、抗ウイルス薬の標的になるかもしれない。
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