研究課題/領域番号 |
17K19576
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
斉藤 隆 国立研究開発法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, グループディレクター (50205655)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | STING / T細胞 / 増殖抑制 |
研究実績の概要 |
自己免疫疾患もアレルギーも過剰に活性化されたT細胞が引き起こす。こうした抑制の効かない活性化T細胞の特異的な抑制が望まれるが、実際には、今の免疫抑制剤は全てのT細胞を抑制してしまう。本研究では、活性化T細胞だけを抑制できる方法の開発を目指す。自然免疫は、ウイルス細菌などをパターン認識しIFNなどを産生させる。T細胞にもこれらの受容体(TLRやSTING等)を発現し、活性化シグナルを誘導する。T細胞を、STINGリガンド・環状ジペプチドで刺激すると、増殖が抑制された。この抑制は活性化T細胞のみで、無刺激のT細胞には影響がなく、STINGリガンドは、活性化T細胞を特異的に抑制できる薬剤になる可能性を示した。本研究は、STINGリガンドがT細胞を抑制するメカニズムを解析することを目的とし、その抑制メカニズムから誘導されるより良い抑制剤の開発を目指した。 (1)STINGリガンドの内、生理的なcGAMP, c-di-GMP (AMP)はTCR刺激と一緒に加えると広い濃度(0.1-10mM)でT細胞の増殖を抑制したが、DMXAAは高濃度では細胞死を誘導した。増殖抑制の誘導は、T細胞が増殖を開始する24hr以降で誘導されたが、IL-2に依存しない初期の増殖には影響しなかった。(2)T細胞の増殖阻害は誘導されるが、細胞死は誘導しないことから、細胞周期阻害が誘導されていた。実際細胞周期関連分子、サイクリンやCdkキナーゼの発現抑制が誘導され、逆に抑制分子p21,p27は発現昂進された。更に、細胞増殖抑制を誘導する活性化シグナルを解析した結果、mTOR経路の活性化抑制が誘導されることが判明した。STINGリガンドによるTCRシグナルとの共刺激によって、TCR刺激で誘導されるmTOR活性化が抑制されて、細胞周期阻害が誘導されて、増殖の抑制に至ることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
T細胞の抗原刺激と共にSTINGを活性化すると、T細胞の増殖抑制が誘導されることからそのメカニズムの解析を進めた。活性化T細胞でのみ増殖抑制が誘導され、目指した活性化T細胞特異的な抑制方法の開発に繋がるものと思われる。生理的なSTINGリガンドによって生理的濃度で誘導されることも判明した。更にお抑制メカニズムとしては、STING刺激で、T細胞では予想外にmTOR活性化が抑制されることが判明し、そのために細胞周期の阻害が起こり増殖抑制につながっていることが解った。
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今後の研究の推進方策 |
今後、STINGリガンドによる活性化のメカニズムを解明して、生体内におけるT細胞STINGの活性化の機能を解析する予定である。(1)STINGリガンドによるT細胞の増殖抑制のメカニズムを更に解析し、RNA-seq解析を行い、発現変化する遺伝子を解明する。(2)T細胞でもTCR/STING共刺激でI型IFNが産生するかを解析する。(3)また、STING活性化によってmTORの活性化が誘導されることが判明したので、mTOR下流のシグナル伝達、およびその機能への影響も解析する。またTCR/STING共刺激によってSTINGと会合する分子をLC-MS/MS解析による同定を試みる。(4)T細胞におけるSTNG活性化のin vivoでの機能を解析するために、STINGリガンドの投与によるT細胞の増殖を調べるとともに、疾患モデルとして、腫瘍移植マウスにおける特異的T細胞のSTING刺激による抑制がみられるか、を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
STINGの活性化でT細胞の増殖阻害が誘導されるメカニズムとして、mTOR経路の活性化抑制を見つけたことから、mTORシグナルを制御するRaptorなどの分子の欠損マウスを用いて解析する必要がでてきた。また、STING刺激でT細胞からもI型インターフェロンが産生される予備的結果を得たことから、自然免疫系で既に解っているI型インターフェロン産生を誘導するシグナルに関与する分子群 TBK1/IKKe, IRF3/IRF7などの分子の欠損マウスを用いて解析する必要も出てきた。これらの種々の遺伝子欠損マウスを入手してコロニーを得た上で解析するために時間と費用が必要になり、次年度にこれらの実験を遂行するために、一部の経費を次年度使用にさせて頂くこととした。そのため、実験計画は、8の今後の研究、の内容とともに、上記した種々欠損マウスを用いたシグナル経路の解析となる。
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