研究課題
「癌細胞または癌組織が広がる時、それらは何を目指して、何に惹かれ移動し拡大してゆくのか」という根本的命題に対しての研究である。癌細胞周辺には特異な基質を含む間質組織が作られる。癌が周囲に進展する際、間質基質の変化が先行して広範囲に生じ、それを追うように癌細胞が広がってゆき、さらに基質変化の領域は先進拡大するChase & Runの可能性を検証している。H29年度は、胃癌の新規基質である事を見出したAsporinを含む低分子プロテオグリカンが癌組織侵入を誘導する機構についてと、細胞外小胞を介した形質伝搬により基質の変化が先行して拡大する機序について解析を進めた。Asporin(ASPN)の癌組織の浸潤に対する作用を調べようと、1基質成分としての働きを観察する培養実験系の作成と、2宿主の間質応答からASPNを排除して癌組織に与える影響を評価するためのASPN遺伝子欠損マウスの準備、および3ヒト胃癌組織における発現解析を行った。その結果、1これまでにも解析方法として用いてきた3次元ゲル浸潤アッセイを応用した、様々なASPN濃度を含む細胞外基質ゲルを作成し、胃癌細胞の浸潤テストで差が見られる条件を確立できた。2ASPNノックアウトマウスを導入し、交配実験を進めホモ欠失マウスの系統維持は完了した。さらにヒト胃癌細胞を移植可能な免疫抑制マウス化を進めている。3ヒト胃癌組織でASPNの発現検討を免疫染色で施行した。進行癌では腫瘍間質細胞での発現が予想どおり高頻度にみられたが、少数例ではむしろ胃癌細胞自体での発現が高い群があり、その特徴の抽出を進めている。細胞外小胞(EV)による形質伝搬の解析では、癌細胞由来のEVがマクロファージを経て間接的に周辺の線維芽細胞等に伝搬する機構を見出した。
2: おおむね順調に進展している
予定していたAsporin濃度依存性の細胞外基質浸潤アッセイの基礎実験から、至適条件の設定が完了し、またAsporin遺伝子欠失マウスの導入も予定通りに行った。新規知見として細胞外小胞の新たな組織内伝搬様式を見出し、それを基に課題の目的である間質組織の変化が癌の進展を促す機構について、解析過程に入っている。
前年度設定した条件により、ASPN濃度と細胞外基質ゲルへの癌細胞浸潤の相関を検討する。ASPN遺伝子欠失免疫抑制マウスを用いて、移植胃癌細胞の形成する腫瘍組織の構造、成分と腫瘍の進展度を野生型マウスと比較し、腫瘍の間質におけるASPNの影響を明確にしてゆく。マクロファージを媒介した腫瘍組織細胞外小胞の伝搬機構についての論文化と、その機構により周辺間質の変化が先行して、癌組織の浸潤を迎えるニッチを形成する分子解析を進めてゆく。また、胃癌間質基質関連遺伝子の時系列解析を進めるために、平成30年度は胃癌細胞を移植したマウス胃壁の経時的サンプルからRNAシークエンスを行い、発現差異解析結果から各タイムポイントで有意に発現上昇のある基質遺伝子リストを作成する。確認のとれた候補分子については、ヒト胃癌の病理標本を用いた検討準備を進め、症例のピックアップと標本準備を進める。
候補分子の解析に必要な受託費、試薬などに経費の不足が予想されるため繰り越し分で確保した。主に、遺伝子発現解析受託費や抗体などの消耗品の購入に充てて補う。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.med.akita-u.ac.jp/~seika2/Akita_Univ._Dept._Molecular_Biochemistry/youkoso.html