本研究では、扁平上皮癌(食道癌、子宮頸癌、肺癌の一部など)の8割程度で発現が亢進しているTSC22D4/THG-1の作用機序を明らかにし、THG-1と特異的に結合する特殊環状ペプチドをスクリーニングし、さらには環状ペプチドを細胞内に送達する方法を開発することを目的とした。THG-1をノックダウンあるいはノックアウトすると細胞増殖、スフェア形成、腫瘍形成が抑制され、細胞老化が促進した。これらの機序として、種々のタンパク質に結合してその機能を制御することを明らかにした。まず、第一にTHG-1はKEAP1に対してNRF2と競合的に結合することでNRF2の分解を抑制し、NRF2活性を亢進して、種々のストレス耐性の向上や糖代謝の変化を誘導した。また、NRBP1への結合を介して、βカテニンの分解を抑制し、WNT/βカテニンシグナルを亢進させた。これらの成果は2つの論文にまとめ、現在投稿中である。これ以外にもTHG-1が結合する腫瘍化に関与する重要な結合タンパク質を同定しており、これらの分子を介する作用についても引き続き解析を継続している。 さらにTHG-1に特異的に結合する特殊環状ペプチドをスクリーニングして同定した。このペプチドは、蛍光分子を結合させて免疫蛍光染色のようにTHG-1を特異的に検出することが可能であった。また、ELISA法のようにTHG-1を定量的に検出することにも応用でした。このペプチドを膜透過ペプチドと結合させて、ヘテロ2量体ペプチドを作製したところ、あまり強くはないが、THG-1の機能を少なくとも一部抑制し、細胞増殖速度を優位に低下させた。この研究についても現在原著論文を投稿中である。
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