研究課題/領域番号 |
17K19581
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮園 健一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (90554486)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | TGF-β / シグナル伝達 / 制御 |
研究実績の概要 |
サイトカインの一種であるTGF-βスーパーファミリーは、細胞の様々な機能を調節する多機能性因子であり、細胞の増殖・分化、アポトーシス、免疫、オートファジー、細胞外マトリックス生産等の制御を担っている。本研究では、細胞内におけるTGF-βシグナル伝達系の主要転写因子SMAD2/3に着目し、SMAD2/3とその制御因子(コファクター)間の相互作用の調節を通じたTGF-βシグナル伝達系の高精度な制御を目指している。SMAD2/3は、他の多くのコファクターが、共同や競合しながら相互作用することにより、多種多様な遺伝子発現の制御を行う。SMAD2/3とコファクターの相互作用を抑制するような人工ペプチドを設計・開発し、ペプチドアプタマーとすることができれば、TGF-βシグナル伝達系の制御が可能となり、TGF-βシグナルが関与する癌や繊維症といった重篤な疾病の治療へとつながる可能性がある。 平成29年度は、SMAD2/3に結合するコファクターのキメラ化を行い、SMAD2/3に対し強く結合する人工ペプチドの設計・開発を行った。具体的には、SMAD2/3のコファクターであるSARA、FOXH1、SKI、CBPをクローニングし、それらのSMAD2/3への結合に必要な領域の同定と、キメラ化を行った。キメラ化する際の順序や種類を変えた人工タンパク質を多数作製し、そのSMAD2/3に対する結合力を表面プラズモン共鳴法により解析したところ、FOXH1とSKIをキメラ化することにより数10 nM程度の解離定数を持つ人工ペプチドを、またSARA-FOXH1-SKIとコファクターをつなげることにより、数nM程度の解離定数を持つ人工ペプチドを作製することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究計画では、SMAD2/3に結合するコファクターのキメラ化及び、構造に基づいたキメラタンパク質の最適化を行うとしていた。SMAD2/3に結合するコファクターのキメラ化では、SMAD2/3の分子表面をより多く覆うようにキメラタンパク質を設計し、大腸菌の異種タンパク発現系を利用して大量調製を行った。その結果、各キメラタンパク質を高純度に調製することに成功した。調製したキメラタンパク質と、同じく大腸菌の異種タンパク質発現系を利用して大量調製を行ったSMAD2/3を用いて、それらの相互作用を表面プラズモン共鳴法により評価を行ったところ、すでに作製に成功していたSARA-FOXH1キメラタンパク質よりも100倍程度強くSMAD2/3に対し結合するキメラタンパク質を作製することに成功した。このキメラタンパク質を細胞内で発現させれば、TGF-βシグナルのうち、SMAD2/3が関与する経路を強く抑制できると期待でき、ペプチドアプタマーによりTGF-βシグナル伝達系を制御する技術基盤を開発するという当初の目的に向け、順調に進展しているといえる。 構造に基づいたキメラタンパク質の最適化では、SMAD2/3とコファクターの相互作用様式をより詳細に理解するため、SMAD3-FOXH1複合体及びSMAS2-SKI複合体の構造をX線結晶構造解析法により決定し、論文として発表した。これらの構造情報を用いて作製したキメラタンパク質に対し適切な変異を導入すれば、より強くSMAD2/3に対し結合する人工タンパク質を設計開発できると期待できる。以上のことから、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度までの研究で、数nM程度の解離定数を持つキメラタンパク質を設計・開発することに成功した。平成30年度の研究では、作製したキメラタンパク質とSMAD2/3の複合体の構造をX線結晶構造解析法により明らかにし、その詳細な相互作用様式を解明するとともに、構造に基づいた変異導入によるキメラタンパク質の更なる最適化を進める。また、将来的な細胞実験及び生物個体を利用した実験を見据え、細胞内・体内動態を考慮し、SMAD2/3への強い結合力を保持しつつ、結合に余剰な配列のない最適化されたペプチドアプタマーを作製する。 具体的には、大腸菌の異種発現系を利用して大量調製したSMAD2/3及びキメラタンパク質を混合し、結晶化実験に供する。結晶が得られた場合、大型放射光施設Photon FactoryにてX線回折実験を行い、得られたデータを基にSMAD2/3-キメラタンパク質複合体の構造決定を行う。得られた複合体構造情報をもとに、SMAD2/3に対しより強く結合する、必要十分な長さを持ったキメラタンパク質を設計する。構造に基づき設計したキメラタンパク質の大量調製を行い、そのSMAD2/3結合能を表面プラズモン共鳴法によって評価する。 また、作製したキメラタンパク質に膜透過性を付与し、遺伝子導入ではなく、ペプチドアプタマーをそのまま利用することによりTGF-βシグナル伝達系を制御できる分子の設計・開発も進める。具体的には、膜透過性ペプチドとの融合や、変異によるアルギニン残基の導入により、作製したペプチドアプタマーに膜透過性を付与する。これらの膜透過性ペプチドアプタマーのSMAD2/3に対する結合力を、表面プラズモン共鳴法により確認する。将来的には細胞実験・個体を用いた実験へと研究を展開していく計画である。
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