TGF-βは、細胞の様々な機能を調節する多機能性のサイトカインであり、細胞の増殖や細胞死、免疫応答、細胞外マトリックス生産、老化等の制御を担う。そのため、TGF-βシグナル伝達系の機能不全は、がんや線維症といった重篤な疾病の原因となる。細胞外から伝達されたTGF-βシグナルは、細胞表層において転写因子SMAD2/3のリン酸化へと変換される。SMAD2/3は数多くの別のタンパク質(コファクター)によってその機能が調節されていることが知られており、TGF-βシグナルの多機能性は、SMAD2/3コファクターの多様性と関係している。本研究では、細胞内で形成されるSMAD2/3-コファクター複合体に着目し、その相互作用の形成阻害を通じたTGF-βシグナル伝達系の高精度な制御を目指した。 平成30年度の研究では、平成29年度に作製した、SMAD2/3に対してきわめて強い結合力を持つSARA-FOXH1-SKI融合ペプチドによるSMAD2/3認識機構の構造基盤を明らかにするため、SMAD2/3とSARA-FOXH1-SKI融合ペプチドの複合体結晶構造解析を試みた。しかしながら、SMAD2/3とSARA-FOXH1-SKI融合ペプチドの複合体は、溶解度や安定性が極めて低く、X線回折実験に供することができる良質な結晶を得ることができなかった。一方、SMAD2/3と相互作用する別のコファクターMAN1とSMAD2の複合体構造解析に成功し、その構造基盤を論文として発表した。これにより、SMAD2/3に対して相互作用するコファクターの構造基盤がより詳細に明らかになった。得られた構造情報を基に、より強くSMAD2/3と結合できるペプチドアプタマーの設計開発を進めることができた。
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