研究実績の概要 |
網膜のがんとして最も症例数の多い網膜芽細胞腫は、多くの場合乳児期に発見され、胎児期にすでにがんが発症していると考えられている。網膜芽細胞腫はtwo hit theoryが初めて提唱されたこと、また初めてのがん抑制遺伝子としてRB1遺伝子が原因遺伝子として単離されたことで極めてよく知られたがんである。しかし、RB1遺伝子の変異は他のがんより網膜芽細胞腫に指向性がはるかに高いことについての分子基盤は明らかではない。その大きな理由はマウスではRB1遺伝子の変異により代償的にp107, p130などが発現するために、マウスのモデル化が困難であることがある。本研究では、human iPSから網膜分化を誘導する系を利用することにより、RB1変異により、どのように網膜芽細胞腫が発症し、進展していくのか、またその網膜特異性が説明しうるのかを明らかにすることを目的とした。まずヒトiPSを網膜オルガノイドに分化させた時のRB1遺伝子の発現を検討したところ、網膜分化に伴い、RB1の発現レベルは強く上昇することを見出した。RB1遺伝子をCRISPRを用いて欠損させたヒトiPS株を作成した。dCASを用いた系が十分にRd1の発現を抑制しなかったため、二つのgRNAを用いて第一エクソンを飛ばして発現を落とす系を構築した。この系による効率について、樹立細胞株を用いて良好であることを確認した。未分化なiPSとして培養している段階で、RB1欠損株について、細胞数の増加、EdU取り込みなどのFACSによる検討により、親株と増殖能に差があるか検討を行った。その結果増殖能は、RB1を抑制しても影響がなかった。次に、網膜分化させた状態でRB1の発現を抑制した場合の分化、増殖能への影響の検討を行った。網膜の初期分化についてはRB1発現の抑制は影響を与えなかった。増殖については、継続的に分化の時間軸にしたがって検討を行った。
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