研究課題
本研究では、ヒト初代培養アストロサイトへの遺伝子変異の導入により人工的がんモデルの作製を通して、脳腫瘍(グリオーマ)の発生過程において、いかに幹細胞性・未分化性が獲得されるのか、その分子基盤の包括的な理解を目標とした。まず、ゲノム編集技術を用いて、ヒトグリオーマで認められる主要遺伝子変異(CDKN2A、PTEN、NF1、TP53)を初代培養アストロサイトに導入し表現型解析を行った。これら4遺伝子すべてをノックアウトすると、不死化や増殖能の亢進が観察された。この不死化アストロサイトは、患者由来サンプルと比較して、僅かなスフィア形成能を有するのみであった。また、免疫不全マウスの頭蓋内への移植による腫瘍形成能を解析したところ、患者由来腫瘍細胞は、100日以内にマウスが腫瘍細胞の増大により死亡するのに対して、不死化アストロサイトでは、明確な腫瘍形成は認められなかった。以上の結果より、本実験で用いた条件では、悪性化に必要な未分化性の獲得には至らず、幹細胞性の獲得には、追加的な遺伝子発現調節機構が必要であると考えられた。そこで、未分化性獲得のために必要な因子を特定するため、これらの不死化アストロサイトと患者由来腫瘍細胞との遺伝子発現解析を行った。その結果、患者由来腫瘍細胞でより高い発現を示す転写因子群の存在が認められた。そこで、これらの転写因子群を個々に不死化アストロサイトにテトラサイクリン誘導系で強制発現させることによって、未分化性の獲得に寄与するかどうか検討することとした。この研究を推進することで、未分化性獲得に必須のシグナルや治療標的を特定することにつながると期待される。
2: おおむね順調に進展している
予備的研究成果や材料を十分に活用し、ユニークな実験系が確立しつつある。本解析を進めることで、目標達成が期待できる。
本実験系を用いて新たな因子を探索し、新規の未分化性獲得様式を見いだすことを目標に解析を進める。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件)
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