研究課題/領域番号 |
17K19586
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
高橋 智聡 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (50283619)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 合成致死性 / RB / SUCLA2 / SUCLG2 |
研究実績の概要 |
がんにおいてしばしばホモ型欠失するがん抑制遺伝子(ドライバー欠失)の近傍に位置し、このような遺伝子の欠失に「巻き込まれる」代謝遺伝子(パッセンジャー欠失)を探索した。そのような代謝遺伝子のうち、ホモ型欠失時にその機能を補完するアイソザイムのコピー数ないし発現量が少ないものは、アイソザイム遺伝子産物の阻害によって、代謝経路がほぼ完全に遮断され、合成致死性(synthetic lethality)が発揮されることによって、抗腫瘍効果を得る可能性がある。我々は、これまでに、膵がんにおいて29%の頻度で欠失するSMAD4がん抑制遺伝子とmalic enzyme 2(ME2)の同時欠失(約90%)が、そのアイソザイムであるME1あるいはME3の阻害と合成致死性を示す可能性、および、前立腺がんにおいてRB1に随伴欠失するSUCLA2とSUCLG2の阻害が合成致死性を示す可能性を探索してきた。さらに、我々は、特定の腫瘍において合成致死性を来す代謝遺伝子ペアの探索法を工夫し、c-bioportal等のゲノムデータベースを用いて種々のがんにおいて頻繁に欠失するがん抑制遺伝子の近傍を探索し、合成致死性を来すことが期待できる新たな代謝遺伝子ペアを見出した。SMAD4がん抑制遺伝子と高頻度に共欠失するME2とME3の合成致死性については、米国のグループからNature誌に報告がなされ、撤退することになったが、未だ報告のないSUCLA2とSUCLG2の合成致死性については引き続き探索を行った。SUCLA2を欠失する前立腺がん細胞株が入手できなかったため、CRISPR・CAS9法によってSUCLA2を欠失させ、SUCLG2を追加的にノックダウンする実験系を作製した。また、CRIPRライブラリーを作製し、SUCLA2欠失細胞でドロップアウトする遺伝子を同定する実験系の作製を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノムデータベースの検索によって、前立腺がんの約15%においてRB1とSUCLA2代謝遺伝子の同時欠失が起こることを見出した。SUCLA2を欠失する前立腺がん細胞株を入手できなかったため、CRISPR・CAS9法によって前立腺細胞株DU145においてSUCLA2を欠失させ、SUCLG2を追加的にノックダウンする実験系を作製した。現在、細胞増殖、細胞生存率、治療感受性に対する差違を観察中である。また、CRISPRライブラリーを作製し、SUCLA2欠失細胞において特異的にドロップアウトする遺伝子を同定する実験系の作製を行った。さらに、特定の腫瘍において合成致死性を来す代謝遺伝子ペアの探索法を工夫し、c-bioportal等のゲノムデータベースを用いて種々のがんにおいて頻繁に欠失するがん抑制遺伝子の近傍を探索し、合成致死性を来すことが期待できる新たな代謝遺伝子ペアを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
CRISPR・CAS9法によって前立腺細胞株DU145においてSUCLA2を欠失させ、SUCLG2を追加的にノックダウンする実験系を用い、SUCLA2とSUCLG2の合成致死性を決定する。既に見出したシーズのがん治療標的としての有効性を明らかにし、かつ、そのPOCを得るために、メタボローム解析や13Cトレーサー法等を用いた代謝フラックス解析を行う。また、標的候補の見出された腫瘍ごとに適切なin vitro及び in vivoモデル系を準備し、阻害剤等の薬効を検討する。更には、同様の標的可能性を示す候補代謝遺伝子群を広範囲の腫瘍・データベースにおいて探索することを目的とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
CRISPR/CAS9法によるSUCLA2のノックアウトに予想以上の時間がかかってしまい、SUCLA2ノックダウンによる合成致死性の検討が遅れてしまった。また、CRISPR/CAS9ライブラリーによるドロップアウトスクリーニングも遅れることとなり、次年度使用額が生じてしまった。平成30年度にSUCLA2ノックダウンによる合成致死性の検討とCRISPR/CAS9ライブラリーによるドロップアウトスクリーニングを行うこととした。
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