研究課題
RB遺伝子の近傍に位置するSUCLA2が、RB遺伝子領域の欠失に極めて頻繁に巻き込まれることが判った。65症例の前立腺がんを調査したところ、グレードの高い6症例においてRBとSUCLA2が同時に発現消失していた。さらに、このタイプの遺伝子欠失を持つがんは、前立腺がんだけでなく、様々な希少がんを含むことも判明した。SUCLA2は、TCA回路の一部であるsuccinyl CoAを可逆的にsuccinateに変換するsuccinate CoA ligaseヘテロダイマーのbeta-subunitを構成する重要な代謝酵素であり、この欠失は広汎な代謝経路に影響を与えるものと考えられる。事実、SUCLA2遺伝子の生殖系列欠失は、メチルマロン酸尿症等の先天性疾患の原因となることが判明している。また、我々は、前立腺がんにおけるSUCLA2発現抑制がミトコンドリアの最大呼吸能を低下させることも突き止めた。つまり、SUCLA2の欠失は、がん細胞の代謝経路に「脆弱性」をもたらす。当初は、SUCLA2のアイソザイムであるSUCLG2の阻害が合成致死性を発揮すると考えたが、その効果は、限定的であることが判った。そこで、我々は、SUCLA2を欠く前立腺がん細胞株とそこにSUCLA2を再構成した前立腺がん細胞株を作成、CRISPR-CAS9ライブラリー(全代謝遺伝子2,751種類)を用い、SUCLA2を欠く前立腺がん細胞株において特異的にドロップアウトする代謝遺伝子を検索し、8の候補遺伝子を得た。さらに我々は、SUCLA2欠失前立腺がん特異的に細胞死を誘導する化合物のスクリーニングを行い、現在までに、天然化合物ライブラリーのスクリーニングから、化合物2種類がSUCLA2欠失株特異的に細胞傷害性を示すことを明らかにした。
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