研究課題
近年、がんの新たな治療法として、がん免疫療法が脚光をあびている。その契機となったのは、抗PD-1(programmed death 1)抗体および抗CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4)抗体ががんの治療薬として承認されたことである。いずれの医薬品も、体に備わる免疫系を操作し、がんを排除する免疫力を強化することによりがんを治療する。腫瘍の局所ではキラーT細胞およびナチュラルキラー細胞がPD-1を高く発現しており、これががん細胞に発現するPD-L1やPD-L2と相互作用することが、抗腫瘍免疫応答の減弱の原因とされている。このPD-1シグナルを抗PD-1抗体あるいは抗PD-L1抗体を使用して阻害し、抗腫瘍免疫応答の減弱を抑制することにより、その増強効果が得られることが推察されている。また、悪性黒色腫自体にPD-1が発現し、その増殖を助けているとの報告もある。一方、活性化したT細胞の表面にはCTLA-4が発現し、CD80あるいはCD86と相互作用してT細胞機能が抑制される。この抑制を解除するのが抗CTLA-4抗体の作用機序である。我々は、PD-1, PD-L1, CD80がmiR-15ファミリー(miR-15a/15b/16/195/424/497/503)によって制御されていることを見いだした。特に、ヒトPD-1遺伝子の3’UTRにはmiR-15aファミリーの結合配列が8箇所あり、CD80には4箇所存在するなど、非常にそれらの関係性が高いことが示唆される。そこで今回、miR-15aファミリーを腫瘍局所に導入し、PD-1およびCTLA-4経路の両方を同時に抑制する治療法を開発する。
2: おおむね順調に進展している
抗PD-1抗体によるがん治療法は、日本では、悪性黒色腫に対する保険適用が最初('14年)で、2015年には肺がんの一部にも適用が広がり、今後、腎臓がんなど他のがんへも適用拡大される見込みである。また、抗CTLA-4抗体は悪性黒色腫に対する保険が適応されている。その効果が大きいことで、大変注目を集めている一方で、それらの薬価がきわめて高いことも社会問題となっている。我々のこれまでの検討の中で、PD-1, PD-L1, CD80はmiR-15ファミリー(miR-15a/15b/16/195/424/497/503によって制御されていることに気づいた。中でもPD-1の3’UTRにはmiR-15ファミリーの結合部位が8箇所、CD80には4箇所もあり、非常に特徴的である。すなわち、miR-15aファミリーを発現させることで、PD-1およびCTLA-4経路の両方を同時に抑制できることになる。既に①miR-15aによってPD-1、PD-L1、CD80の3’UTRを持つレポーター遺伝子が抑制されること、さらに結合部の変異により抑制が解除されること、また、②miR-15aによりヒト卵巣がん由来Skov3細胞とT細胞共培養系において、T細胞からのTNF-α、INF-γ、IL-2の分泌を有意に上昇させることを見いだした。さらに、③同共培養系ではCD8+T細胞のアポトーシスが生じるが、miR-15aはこれも減少させた。生体において、これらの合成RNAを局所で効率よく発現させるために、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)ナノ粒子を応用する予定である。過去の我々の検討においても、同様の方法によりマウスの生体に高い導入効率を実現することができた。さらに生体での徐放化のプロファイルを検討し、最も治療効果を発揮することのできるシステムを開発する。
①合成核酸徐放化を用いたRNAデリバリーシステムの開発:生体において、miR-15aファミリーの合成RNAを局所で効率よく発現させるために、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)ナノ粒子を応用する予定である。過去の我々の検討においても、同様の方法によりマウスの生体に高い導入効率を実現することができた。さらに生体での徐放化のプロファイルを検討し、最も治療効果を発揮することのできるシステムを開発する。② miR-15aを発現する合成核酸の徐放化を用いた免疫チェックポイント阻害療法の開発:上記のmiR-15a発現2本鎖RNA含有PLGAナノ粒子を用いて、生体内でのがんの治療に対する検討を行う。1)DBA/2マウスに同系マウスの肥満細胞腫株であるP815を1×106個皮下に植え込み,皮下腫瘍モデルを作成する。同時にmiR-15a発現2本鎖RNA含有PLGAナノ粒子およびコントロールRNA含有PLGAナノ粒子を投与し、腫瘍の体積、また生存について検討する。腫瘍細胞投与5~10日後からの治療効果も検討する。また、PD-1、PD-L1、CD80の発現変化についても検討する。2)さらに、BALB/cマウスに同系マウスの骨髄腫細胞株であるJ558L を2.5×106個皮下に植え込むモデル、C57BL/6マウスに同系マウスの悪性黒色腫細胞株であるB16 を1×106個皮下に植え込むモデルにおいても同様の検討を行う。③miR-15a発現2本鎖RNA含有PLGAナノ粒子の他の効果の検討:これまでに、アルツハイマー病に対して、抗PD-1抗体の効果が報告されている。アルツハイマーモデル、あるいは動脈硬化モデルに対する上記RNAの効果についても検討を行う。
順調に計画は進行しているが、試薬を効率的に使用することで使用量の削減が可能であったため。
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