研究課題/領域番号 |
17K19593
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
茶本 健司 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (50447041)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 抗腫瘍免疫 / PD-1 / 免疫抑制 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
PD-1抗体を介したがん免疫治療が劇的な抗腫瘍効果を示し、世界から注目を集めている。しかし、依然として一定のがん患者には不応答性であり、その原因追求が急務である。現在、多くの研究者が患者間の腫瘍組織のゲノムシークエンスの比較や、がんの試験管内スクリーニング法を用いて、PD-1抗体治療感受性決定遺伝子の同定を試みているが、下記の2つの理由により困難な状況にある。 (1) 個体別の腫瘍を用いて比較するため、個体間の遺伝子背景の違いに埋没し、PD-1抗体治療の応答性決定遺伝子のみの抽出が困難である。 (2) 応答性遺伝子を抽出するためのスクリーニングが主に試験管内のシステムに依存している。それゆえ、生体内における高度で複雑なセレクション結果を反映した遺伝子を抽出することは極めて困難である。 これらの問題を解決するため、我々はCRISPR技術を用いた同株由来細胞ライブラリーの作成と、それを生体内のがん排除免疫システムにセレクションさせる手法を考案する。この革新的手法により、遺子背景の差を考えることなく、生体内で真に重要な機能を有する応答性決定遺伝子のみの抽出が可能となる。これらの遺伝子は、試験管内の単純システムから得ることが難しく、また多分野にまたがる機能を有する可能性が高い。この遺伝子の機能を解析することで、分野横断的な学術的進展が期待される。 本研究はPD-1抗体治療の効果を見分けるバイオマーカーを提供するだけでなく、発見分子を中心としたがん免疫治療法の改善に役立つと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PD-1抗体半応答性腫瘍株にCRISPRライブラリーを導入し、様々な遺伝子をランダムにノックアウトした同株由来がん細胞ライブラリーを作成した。この細胞ライブラリーは、遺伝子背景はおなじであるが、細胞1つにつき1つの遺伝子がランダムに欠損する細胞集団である。よってライブラリー内には、PD-1抗体治療に対し、感受性が高くなった細胞と低くなった細胞が混在する。活性化した免疫細胞により、がん細胞ライブラリーを生体内でセレクションするため、細胞ライブラリーを野生型マウスに接種し、すでに確立しているPD-1阻害抗体治療を行った。短期間の生体内スクリーニングの後、腫瘍塊を採取し、抽出した腫瘍細胞由来DNAからCRISPRのguide RNA配列(CRISPR配列)を読み込んだ。各遺伝子についてCRISPR配列のread数を PD-1阻害条件下と、未スクリーニング(未治療)の条件下で比較たところ、PD-1阻害抗体の治療効果を左右する遺伝子候補が挙がってきた。これらの実験は計画書通りに進んでいると考えられたので、上記の区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、同定されたがん細胞由来遺伝子が、どのようにがん組織の形質に影響を及ぼし、どのように免疫逃避機構に寄与するか解明する。同定した遺伝子を同親株に過剰発現、もしくは、欠損させた腫瘍を接種し、PD-1阻害抗体治療に対する感受性が実際に生体内で変化するか確認する。これらの細胞を用いて、腫瘍組織の組織学的変化、および腫瘍細胞上に発現する免疫制御分子やサイトカイン等の発現を親株と比較検討する。また担がんマウスの所属リンパ節や腫瘍内浸潤T細胞のエフェクター/メモリーT細胞等のマーカー、サイトカイン/ケモカイン産生を指標に活性化状態を調査し、どのようにして同定された遺伝子かが、免疫感受性を制御しているのかメカニズム解明を行う。さらに生体内でのがん細胞のセレクションには免疫反応だけでなく、様々な要因が関与しているため、免疫学的解析だけでなく、血管新生・エネルギー代謝・ホルモン等の内分泌系影響も考慮した集学的解析をおこなう。
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