研究課題/領域番号 |
17K19598
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
鵜殿 平一郎 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (50260659)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | CD8TILs / Glut-1 / ROS / Nrf2 / PD-1 |
研究実績の概要 |
これまでのCD8TIL解析結果では、コントロール担癌(MethA)マウスのCD8TILでは、ROSの蓄積はみられるがGlut-1の発現はない。メトホルミン(Met)投与または抗PD-1抗体投与によりROSおよびGlut1の両方が発現してくるが、発現パターンは明らかに異なる。MetではGlut1の発現が高い程逆にROSの蓄積が少なくなるが、抗PD-1抗体の場合はGlut1の発現が高い程ROSの蓄積は多い。この結果は、Metの場合は解糖系亢進と同時にROSを消去するための抗酸化ストレス応答が発動している可能性があり、 抗PD-1抗体の場合は作動しておらず、 ROSは蓄積し続ける可能性が考えられる。ROS蓄積は早晩, 細胞に障害が起こる可能性がある。Metと抗PD-1抗体の併用は、単剤に比べて優れた抗腫瘍効果をもたらすが、これは抗PD-1抗体によるTCRシグナル復活とそれに伴う解糖系促進効果、これに加えてMetによるROS消去機構が加わることが一つのメカニズムである可能性がある。そこで、 MethA線維肉腫からCD8TILを取り出し、in vitroで数時間培養することにより、MitoSOXで検出可能なミトコンドリア由来の活性酸素(ROS)とグルコーストランスポーターGlut-1の発現を2次元で同時解析した。その結果、Met投与群では抗酸化ストレス応答に必須の転写因子Nrf2が作動することが明らかになった。一方、抗PD-1抗体の投与群ではNrf2の活性化は認められなかった。両者の併用群では、Met単独群と同様にNrf2の活性化が認められ、ROSの消去が観察された。以上の結果は、MetによりCD8TILsに蓄積するROSの除去が行われ、抗PD-1抗体と併用によりCD8TILsの細胞数を飛躍的に増加させる機構が明らかになったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
免疫治療によるCD8TILsのGlut-1上昇機構を明らかにするために、以下の実験を行った。MethA線維肉腫からCD8TILを取り出し、in vitroで数時間培養することにより、MitoSOXで検出可能なミトコンドリア由来の活性酸素(ROS)とグルコーストランスポーターGlut-1の発現を2次元で同時解析した。メトホルミン投与マウス由来のCD8TILではGlut-1(high)ROS(low)の集団が見られるが、グルタチオン添加でGlut-1(low)ROS(low)の集団に置き換わった。即ち、Glut-1上昇をもたらすためには、ROSが必須であることが示唆された。一方、Nrf2、G6PDHに対する阻害剤ではGlut-1上昇は変化ないが、ROS(low)がROS(high)へと変化した。即ち、Nrf2やペントースリン酸経路の駆動はROSの消去に必須であることが明らかになった。抗PD-1抗体の投与によってもGlut-1上昇は認められるが、Glut-1(high)ROS(low)の集団は見られず、Glut-1(high)ROS(high)の集団のみが観察された。また、グルタチオン、Nrf2およびG6PDHに対する阻害剤でもGlut-1(high)ROS(high)の集団には大きな変化は認められなかった。従い、メトホルミンと抗PD-1抗体はともにGlut-1上昇をもたらすが、その分子機構は全く異なることが推察された。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度までにメトホルミン(Met)投与によるCD8TILsのNrf2依存性の抗酸化ストレス応答が惹起されること、しかし一方で、抗PD-1抗体の場合は抗酸化ストレス応答が誘導されないことが明らかになった。今後の重要な課題は、Nrf2が如何なるメカニズムで活性化されるのか(核内移行するのか)、解糖系亢進とNrf2の活性化はどのような関係にあるのか、Metと抗PD-1抗体の併用がどのようなメカニズムで相乗効果を生むに至るのかをより詳細に解明していく。 以上のことを明らかにするために、mTORC1の活性化の有無、Ki67発現を指標としたCD8TILsの細胞増殖との関連性、さらには、ここにNrf2活性化阻害剤を入れた場合に如何なることが起こるのかetc.について検証を試みる。これらのex vivoの実験と並行して、すでに作成済みのNrf2floxマウスとグランザイム-Creマウスとの交配で得られるコンディショナルKOマウス(腫瘍内で活性化されたCD8TILsのみでNrf2が欠損する)を用いて、Met単独、あるいは抗PD-1抗体との併用効果がどのように変化するのかにつき、さらなる検討を積み上げることが必要である。コンディショナルKOマウスの固形腫瘍から回収されたCD8TILsを用いて、これまでと同様の解析、即ち、ROS産生、Glut-1発現、mTORC1およびKi67の上昇の有無などを解析する。In vivo, in vitro 双方のアプローチにより、より生理学的な抗腫瘍免疫応答の分子メカニズムを明らかにしていく。
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