研究課題/領域番号 |
17K19602
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大内田 研宙 九州大学, 大学病院, 講師 (20452708)
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研究分担者 |
寅田 信博 九州大学, 大学病院, 臨床検査技師 (00398075)
前山 良 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (10611668)
江上 拓哉 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (40507787)
藤田 逸人 九州大学, 医学研究院, 助教 (40611281)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 膵癌 / 膵星細胞 / 癌微小環境 / phenotype switching |
研究実績の概要 |
本研究では、膵癌間質において中心的な役割を担う膵星細胞の機能的なheterogeneityに着目し、膵星細胞の機能的な多様性や、産生される基質の特性を明らかにするとともに、癌微小環境内で癌浸潤に促進的な作用を有する細胞集団を抑制的な細胞集団へphenotype switchingする膵癌間質治療の新たな戦略の確立を目指す。本年度は、膵癌細胞と膵星細胞の三次元共培養モデルを作製し、癌浸潤を誘導する膵星細胞の特徴や、基底膜浸潤を促進する膵星細胞の新たな役割を明らかにした。マウスモデルにおいては、膵星細胞の表面に発現しコラーゲン取り込み受容体と呼ばれるCD280(Endo180)を抑制すると、細胞外基質のコラーゲン線維方向を抑制性に再構築し、腫瘍進展が減弱されることを示し原著論文として発表した。 また、膵星細胞のphenotype switchingを進めるにあたり、膵星細胞が癌微小環境内で活性化される要因としてオートファジーが関わることを明らかにした。ヒト膵癌切除組織由来の膵星細胞では、オートファジーが活性化されており、オートファジーを阻害することで膵星細胞内の脂肪滴が増加し、膵星細胞が静止化へ誘導され、細胞外基質の産生やIL6の分泌が低下することを示した。同所移植マウスモデルでは、膵星細胞のオートファジーを抑制することで腫瘍体積や肝転移・腹膜播種数が減弱されることを示し原著論文として発表した。さらに、現在、膵星細胞の静止化を脂肪滴の蓄積で評価する独自の系を確立し、膵星細胞を静止化へ誘導するための新規薬剤の同定・開発を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト膵癌由来膵星細胞の樹立は継続しており、現在までに約90種類以上樹立している。また、膵癌自然発生モデルマウスからも多数の膵癌由来膵星細胞の樹立を行っている。樹立した膵星細胞は独自の三次元培養モデルにて観察し、腫瘍促進もしくは抑制的な細胞集団への分類を進めている。 これまでの研究期間では、三次元培養モデルにおいて膵星細胞に発現するCD280(Endo180)が細胞外基質のコラーゲン線維の再構築に関わり、癌細胞の浸潤を誘導する膵星細胞のリーディングセルとしての性質に関与することや、癌細胞の基底膜浸潤に膵星細胞が関与することを明らかにした。 また、癌微小環境内における膵星細胞の活性化にオートファジーが関与することを明らかにし、その抑制によって腫瘍進展や転移が減弱されることをマウスモデルで示した。 さらに現在、腫瘍促進から抑制的な膵星細胞集団へのphenotype switchingを進めるにあたり、活性化膵星細胞の静止化への誘導に着目し、その際に変動する分子マーカーの網羅的解析により治療標的因子の同定を進めており、進捗状況としてはおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、ヒト膵癌及び自然発生膵癌マウスから膵星細胞の樹立を行い、三次元培養下での基質の特性や癌細胞との共培養系において癌浸潤促進もしくは抑制的に働く細胞集団の分類を行う。また、分類された膵星細胞集団に特異的に発現するマーカーを網羅的解析で同定する。同定された因子の抑制や過剰発現により、in vitroでの脂肪組織浸潤、血管浸潤、腹膜浸潤を疑似的に再現した三次元培養モデルで解析する。また、In vivoでの同所移植モデル等で腫瘍進展能や、その病組組織学的評価により癌間質の量及び質的評価を行う。 さらに、当研究室では生体組織を疑似した立体的組織構造体であるオルガノイドを膵癌組織よりルーチンに作成しており、これを使用した解析も行う予定であり個々の患者の腫瘍背景に即した、癌間質相互作用を解析できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画はおおむね順調に進展しており、資金を有効に使用できたため。 研究用試薬、器材、抗体等の消耗品、受託解析、論文の成果発表に使用予定。
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