研究実績の概要 |
卵巣癌は早期発見が困難で,5年生存率は40%以下と予後不良な疾患であり,近年まで40年間にわたり長期予後が改善していない.そのため,卵巣癌発症の高危険群に対しては適切ながん予防策を講じるとともに,発症例に対しては至適治療法を選択してその死亡率の減少をはかることが喫緊の課題である. ところで卵巣癌の約10-20%はがん関連遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアント(病的変異,病原性多様体)を保持していることから遺伝性に発生するといわれている.そのため原因遺伝子の遺伝学的検査はがん予防策を構築する上での端緒となるものの,本邦における卵巣癌関連遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントの特徴は明らかになっていない.そこで卵巣癌個別化予防法を確立することを目的に,卵巣癌患者由来germline DNAを対象に生殖細胞系列バリアントを同定した. 慶應義塾大学医学部産婦人科学教室バイオバンク(Keio Women’s Health Biobank)に保管されている上皮性卵巣癌,卵管癌および腹膜癌,計230例由来のgermline DNAを対象に,遺伝性卵巣癌に関連すると考えられる79遺伝子のバリアントをターゲットキャプチャー法にて解析した.41例(17.8%)で合計11遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを認めた.そのうち遺伝性乳癌卵巣癌症候群の原因遺伝子であるBRCA1とBRCA2(BRCA1 / 2)の病的バリアントをそれぞれ19例(8.3%)と8例(3.5%)で,リンチ症候群の原因遺伝子であるミスマッチ修復遺伝子の病的バリアントを6例(2.6%)で検出した.BRCA1 / 2病的バリアント保持者,あるいはすべての遺伝性卵巣癌関連遺伝子の病的バリアント保持者は,それぞれの変異を保持していない人と比べ,より若年で診断され,第1度または第2度近親者に卵巣癌患者がおり,高異型度漿液性癌が多いことが判明した. 本成果は,日本人における個人のリスクにあわせたゲノム医療につながる個別のリスクを把握した予防や診療の基盤データとなり得る.
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