研究実績の概要 |
新たに20例の膵癌オルガノイドを樹立し、これまでに樹立していた20例と合わせて40例の膵癌オルガノイドによるライブラリーを作製した。このライブラリーの全サンプルに対してエキソームシーケンス、染色体コピーナンバー解析、遺伝子発現マイクロアレイ解析を施行し、網羅的に膵癌オルガノイドの遺伝学的情報を収集するとともに、オルガノイドの長期的な細胞増殖能を維持するために必要な種々のニッチ因子の要求性を検討した。その結果、膵癌オルガノイドはWntとRspondinという2つのニッチ因子の要求性に応じて3つのサブタイプに分けられることが明らかとなった。すなわち、①WntとRspondinのいずれも必要とするタイプ(Wnt非分泌型)。②Wntは自己分泌し、Rspondinのみを必要とするタイプ(Wnt分泌型)。③WntとRspondinのいずれも必要としないタイプ(Wnt/Rspondin非依存型)である。網羅的遺伝子発現解析、および予後付き公開データの解析から、この3つのサブタイプは段階的に悪性化していることが明らかとなり、加えてメチル化マイクロアレイ解析の結果、その背後では転写因子GATA6の発現量が低下していることが判明した。実際、shRNAを用いたGATA6のノックダウンにより、Wnt非分泌型膵癌はWnt分泌型膵癌に変化し、反対に、GATA6の過剰発現により、Wnt分泌型膵癌はWnt非分泌型に変化した。一方で、正常膵管オルガノイドに、CRISPR/Cas9システムを用いて膵癌に代表的な4つの遺伝子(KRAS, CDKN2A, TP53, SMAD4)の変異を導入することで、人工膵癌オルガノイドを作製することに成功した。この人工膵癌オルガノイドは、Wnt非存在下で培養すると著しく増殖が抑制されるが、徐々にその環境に適応し、Wnt分泌型へ変化することが明らかとなった。
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