オルガノイド培養技術を用いて従来不可能であった患者検体に由来する培養膵癌細胞のライブラリ(膵癌オルガノイドライブラリ)を構築することに成功した。全エクソンシーケンス、遺伝子発現マイクロアレイ解析、染色体コピー数解析、メチル化アレイ解析を行い多階層的な遺伝学的情報を収集するとと同時に、オルガノイド培養に必須な複数の細胞増殖因子に対する要求性を全オルガノイドに対して詳細に検討した。その結果、膵癌はWntとRspondinという2つの細胞増殖因子に対して、遺伝子異常に因らない機序で非依存性を獲得していることが明らかとなり、その要求性の違いからWnt非分泌型、Wnt分泌型、Wnt/Rspo非依存型に分類されることが示された。 膵癌オルガノイドおよびがん関連線維芽細胞に対するWntの発現解析、ならびにWnt非分泌型膵癌とがん関連線維芽細胞による新しい共培養系による検討の結果から、Wnt非分泌型膵癌は周囲のがん関連線維芽細胞からWntの供給を受けていることが示された。Wnt分泌型膵癌は自己分泌性Wntの活性を阻害する薬剤に対して感受性がみられた。 3つのサブタイプは徐々に悪性化していることが示唆され、その根底ではGATA6という膵臓の発生過程で重要な役割を担う転写因子の発現が低下していることが一因と考えられた。実際、GATA6の遺伝子ノックダウンによりWnt非分泌型はWnt分泌型へ変化し、反対にGATA6の遺伝子過剰発現によってWnt分泌型はWnt非分泌型へ変化した。 一方、CRISPR/Cas9システムにより正常膵管上皮由来のオルガノイドから、KRAS、CDKN2A、TP53、SMAD4の変異のみを有する人工的膵癌モデルオルガノイドの作製に成功した。このKCTSオルガノイドは免疫不全マウスへの異種移植によって病理組織学的に膵癌であることが示された。
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