研究課題
微小環境における代謝制御がエピゲノム編集など細胞機能に与える影響の重要性が認識され始めているが、現状では細胞内の代謝物分布を捉える事は難しくどのように制御されるかという包括的な研究はなされてこなかった。本研究では翻訳後修飾を介した微小管と解糖系酵素との相互作用機構に着目し、局所エネルギー代謝制御に起因する細胞骨格の再編成(ダイナミクス)の機序の解明を解明しがん細胞の化学治療抵抗性獲得のメカニズムを明らかにすることを目指す。1年目である本年度は主に解析ルーツの作製に時間を割いた。まず、微小管重合阻害剤であるパクリタキセル耐性株をin vivoにて作成するため以下の系を構築した。乳がん細胞株MDA-MB231細胞をヌードマウスに接種し、腫瘍の成長後にパクリタキセルを複数回投与、一定期間後に腫瘍を摘出、細胞を単離した。この操作を3回繰り返し、その都度投与するパクリタキセル濃度を上げることで、耐性株を複数種樹立した。得られた耐性株と非耐性株を比較したところ、耐性株では微小管の修飾動態が大きく異なる上に、以前我々が報告した解糖系酵素のメチル化修飾(Yamamoto T. et al., 2014)が亢進していることが明らかになった。次に解糖系酵素と微小管との相互作用をモニタリング可能にした発現ベクターの構築を行なった。担体や蛍光プローブとの共有結合が可能なツールであるHaloタグをチューブリンのアミノ末端に連結することで、微小管と解糖系酵素のアフィニティの変化およびその可視化を可能にした発現ベクターを作成した。次年度以降これらのツールを活用し、修飾操作による細胞骨格ダイナミクス制御の検証実験を行ない、人為的に局所でのエネルギー代謝を操作することを予定している。
2: おおむね順調に進展している
今年度は2年目、3年目の研究で鍵となる解析ツール(パクリタキセル耐性細胞およびチューブリンヘテロダイマーの協調発現ベクター)の作成に時間を割いた。ヌードマウスに乳がん細胞株MDA-MB-231を接種することで作製したパクリタキセル耐性株では、対照群と比較して、研究代表者が以前報告した解糖系酵素のメチル化修飾部位の修飾が亢進している事を見出した。加えて、微小管自体の修飾動態が耐性株では亢進しており、両者の相互作用に翻訳後修飾レベルの違いが関係している可能性が考えられる。また、両者の相互作用をモニタリングする発現ベクターツールの作出も完了した。これらの理由から、概ね当初の予定通りに進行しているものと考える。
チューブリンはリン酸化、アセチル化、ポリグルタミン酸化など多彩な翻訳後修飾を受ける微小管構成タンパク質であるが、修飾パターンの違いによるアウトプットの差(チューブリンコード)、解糖系酵素との会合能に違いを生ずる可能性が考えられる。そこで、今後の推進方策として、チューブリンの修飾コードの違いにより異なる、相互作用因子の同定を試みる。この実験には本年度構築したチューブリンサブユニットのdual発現系の利用が必須であり、その際、チューブリンアセチル化酵素ATAT1や脱アセチル化酵素SIRT2/6、解糖系酵素のアルギニンメチル化酵素PRMT1などを培養細胞に強制発現もしくはゲノム編集にてノックアウト細胞を作出することで、人為的にチューブリンおよび解糖系酵素の修飾レベルを制御することで、異なる結合タンパク分子群を同定可能であると考える。
本助成金の交付時期が夏ごろとなり、予算執行が例年よりも遅くなったため。よって研究の進行具合を鑑みて、本年度中に発注する予定の幾つかの消耗品が次年度への発注となったことにより次年度使用額が生じた。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Nature Communications
巻: 9 ページ: 1561
10.1038/s41467-018-03899-1
International Journal of Parasitology: Drugs and Drug resistance
巻: 8 ページ: 125-136
10.1016/j.ijpddr.2018.02.004