研究課題/領域番号 |
17K19616
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
古川 鋼一 中部大学, 生命健康科学部, 教授 (80211530)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | エキソソーム / 糖脂質 / 微小環境 / ガングリオシド |
研究実績の概要 |
癌細胞由来の液性因子及びエクソソームによる微小環境の制御機能の解析のため、以下の実験を行い、各々有意義な成果を修めることができた。 1. メラノーマ、グリオーマ、小細胞肺癌細胞株について、ガングリオシドGD3の発現がない親株と、各々にGD3合成酵素cDNAを導入して樹立したトランスフェクタント細胞を用いて、超遠心法によるエクソソームの調製を行い、その糖脂質関連タンパク質分子の発現レベルを解析するとともに、親株のそれとの比較検討を行った。その結果、GD3発現の有無によってエクソソームの発現・分泌レベルはほとんど変わらなかった。そこで、GD3発現の有無によるエクソソーム中のインテグリン含量をイムノブロッテイングで比較したところ、総じてGD3発現細胞でインテグリン アイソフォームの上昇が見られた。一方、元の細胞株の側では、GD3発現の有無によりインテグリンの発現レベルに差異が見られなかった。 2. 同様に、EGF受容体ファミリーの発現の比較検討を行ったところ、GD3陽性細胞由来エクソソームでEGFR1の発現亢進が見られ、そのリン酸化フォームも同様の結果であった。一方、元の細胞でも、その発現レベルに同様の変化が認められ、エクソソームに特有の現象ではないことが示唆された。 3. エクソソーム中の糖脂質組成を解析するために、各種細胞及びその由来エクソソームから糖脂質を抽出しTLC解析を行い、細胞に発現するガングリオシドが含まれることが確認された。現在、その質量分析による構造解析を進めている。 4. GD3陽性癌細胞由来のエクソソームを陰性細胞に作用させた時のシグナル変化を検討して、ErkやAkt分子のリン酸化の亢進を検出した。現在、さらに細胞形態、細胞増殖、浸潤能等への影響を解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画にてらして概ね順調に進展していると考える。とくに再現性良くエクソソームを採取して、その性状と機能を解析することが可能になっていること、元の細胞株と、細胞株由来のエキソソームの中に含まれる糖脂質関連分子群の組成に関してイムノブロッテイングで解析することにより、GD3発現細胞由来のエキソソームが明らかに高レベルのインテグリンを含むことが判明したことは、その機能における解析の意義を一層高めることになった。これまで、癌転移時に、転移先の臓器のtropism が、エキソソームが含むインテグリンのアイソフオームによって決められるという衝撃的な報告がなされているが、今回の発見は、インテグリンの転移先の決定機能の発現に癌関連ガングリオシドが関わることを示唆する重要な知見と考えられる。 また、種々の糖脂質発現細胞株からのエキソソームを採取して、その糖脂質含量などの組成の解析と微小環境における機能を解析中であるが、確かな糖脂質が含まれることが証明され、微小環境の細胞群に与える影響の解析結果が待たれるところである。さらに、ErkやAkt のリン酸化亢進など、癌由来エキソソームが癌微小環境において炎症反応の増強など、癌の進展に促進的に働くことが実証されつつあり、癌治療の戦略を考える上で大きな示唆を与えるものである。 一方、エキソソームがいかに癌細胞で生成され分泌されるのか、という点について、課題の中心としては掲げていなかったが、その役割を考える上で必須の問題になってきたので、とくにエキソソームの分泌における脂質ラフトの関与について、メチルβシクロデキストリン処理時のエキソソームの量と質の解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1. これまで調製してきた各糖脂質リモデリング癌細胞株および癌細胞由来のエキソソームから抽出した糖脂質の詳細な化学組成に関して、TLC、TLC免疫染色を行い、比較検討するとともに、QTRAP6500による質量分析を行い、脂質セラミド部位を含めた分子全体の解析を行う。よって、エキソソーム生成における糖脂質の取込み時の選択制の有無を明らかにする。 2. エキソソームの分泌における脂質ラフトの関与とガングリオシド発現のパターンの影響を、前年に引き続いてメチルβサイクロデキストリン処理によるエキソソームの政情変化を中心に解析する。 3. 癌細胞由来エキソソームの癌転移における役割につき、前年に引き続いて、以下の点を中心に解析する。 a. エキソソーム中におけるガングリオシドとインテグリンなどの糖脂質関連タンパク質との複合体形成の有無につき、免疫共沈降とイムノブロッテイングを行って明らかにする。また、この複合体の機能に関して、ガングリオシドの際による周辺細胞への作用の違いを、in vitroの実験により明らかにする。 b. 種々のガングリオシドを発現する癌細胞由来エキソソームをマウスに注入した後、低転移性癌細胞を注入して癌転移能の変化を観察する。また、逆の組み合わせでも同様の実験を行う。 c. 蛍光標識した癌細胞由来エキソソームをマウスに注入した後、全身の臓器におけるエキソソームの分布状態と臓器の取込みにつき比較検討する。さらに、高取込み部位における組織の変化につき、炎症反応を示す遺伝子 (mRNA) 発現、サイトカインやケモカイン、MMPファミリーの発現、糖鎖発現の変化等の解析を行うことにより、転移ニッチェの形成の有無を明らかにする。これらの結果に基づき、エキソソームを標的にした癌転移抑制の戦略を考案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた質量分析によるスフィンゴ糖脂質の脂質部位を含む分子全体の化学構造の解析が、まだ端緒の段階にあり、サンプルの調製は進展しているが、まだ全体の構造解析が本格的に始まっていないことで、質量分析用の費用分が次年度に持ち越されたことによる。また、細胞外顆粒内のタンパク質の分子形などに関する詳細な検討のために、高価な抗体の購入が必要となるが、現在、その選択段階にあり、次年度早々に購入することになるため。
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