研究課題/領域番号 |
17K19622
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
向井 英史 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, ユニットリーダー (60570885)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞治療 / 合成生物学 / 細菌 / がん治療 / 一酸化窒素 |
研究実績の概要 |
本研究では、がん治療を指向して、一酸化窒素(NO)を高濃度に産生する遺伝子改変バクテリアによるがん微小環境リモデリングを目指した研究開発を進めている。バクテリアの細胞内で、NOは主として、アルギニンを材料に一酸化窒素合成酵素(NOS)によって合成され、また、亜硝酸還元酵素(Nrf)反応により産生される。一方で、一酸化窒素ジオキシゲナーゼ活性を持つHmpによりNOは硝酸イオンへと代謝される。本年度は、まず、フリーラジカルアナライザーによりlog phase後期時点のNO濃度を評価したところ、Hmp欠損大腸菌株(⊿Hmp株)の培養系では30 nM程度であり、通常の大腸菌株(20 nM程度)と比較して顕著に高かった。Log phaseでは培養液の濁度の上昇に伴ってNO濃度も上昇するが、stationary phase以降は逆にNO濃度が低下することが明らかとなった。これらの結果は、大腸菌細胞内の代謝調節により細胞外のNO濃度を制御可能であること、また、大腸菌の周辺環境変化によってNO関連の代謝経路も影響を受けることを示唆している。これまでの報告から、血管新生誘導などでは約100 nMのNO濃度が必要と考えられている。腫瘍局所での必要濃度であるため培養系の評価と直接の比較は出来ないが、さらに、⊿Hmp株にNOSやNrfを発現させた改変株の作製、その評価を進めている。その他、静脈内投与したバクテリアの生着・増殖性が高い腫瘍と著しく低い腫瘍があること、それが腫瘍血管の配置や間質の量など、腫瘍微小環境の違いと関連があることを見出し、詳細な解析を進めている。また、腫瘍内に生着したバクテリアの生物活性が時間と共に変化していることを示唆する結果を得た。増殖/休眠・外来遺伝子発現・代謝活性などの観点から検証を進めており、バクテリアマシンの機能発現を制御するうえで必須の知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一酸化窒素産生代謝系に関連する遺伝子群の発現を調節した改変株の作製およびその評価が進行中であり、また、腫瘍内でのバクテリアの生着・増殖や代謝変化など、個体への応用へ向けた知見も得られてきており、総合的に判断して、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
一酸化窒素産生代謝系に関連する遺伝子群の発現を調節した改変株の作製およびその評価を進めながら、これら細菌株を担がんマウスに投与した際の、腫瘍組織内でのNO濃度変化について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗の兼ね合いで、本年度実施予定であった一酸化窒素代謝経路に関連する遺伝子群の発現を調節した改変株の評価の一部について、2019年度も引き続き実施することとしたため。改変株の評価のための消耗品費として使用する予定である。
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