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2017 年度 実施状況報告書

オルガノイドを用いた子宮内膜がん発がんモデルの確立

研究課題

研究課題/領域番号 17K19624
研究機関千葉県がんセンター(研究所)

研究代表者

筆宝 義隆  千葉県がんセンター(研究所), 発がん制御研究部, 部長 (30359632)

研究分担者 丸 喜明  千葉県がんセンター(研究所), 発がん研究グループ 発がん制御研究部, 研究員 (30742754)
田中 尚武  千葉県がんセンター(研究所), 婦人科, 部長 (80236611)
研究期間 (年度) 2017-06-30 – 2020-03-31
キーワード子宮がん / がん肉腫 / オルガノイド / モデル
研究実績の概要

研究代表者は、マウス正常腸管オルガノイドへの複数遺伝子導入により、大腸多段階発がん過程の本質的な部分が迅速に再現可能であることを以前報告している。本課題では同様の手法を子宮内膜に適用して様々な遺伝子型の子宮体がんを細胞レベルで再現することを目的とした。従来子宮体癌モデルとしてPtenの遺伝子改変モデルが多数作成されていたことから、まずPtenをshRNAでノックダウンしてヌードマウス皮下へ移植したところ、予想に反してまったく腫瘍形成を認めなかった。次に、LSL-KrasG12D/+マウス由来のオルガノイドに対してCre-recombinaseを導入してKrasを活性化した上で、Ptenに対するshRNAを導入してノックダウンを行ったが、やはり腫瘍形成を認めなかった。そこで、実験に使用するオルガノイドとして長期間培養後のものを選択したところ、リンパ節転移を伴う腺癌が誘導された。同一の細胞を用いた際には再現性が認められ、また皮下腫瘍の最移植により再びリンパ節転移が誘導された。一方、レンチウイルス感染そのものによりp16が誘導されて増殖を停止する現象が頻回に認められたことから、Cdkn2aに対するshRNAをKras活性化オルガノイドに導入したところ、上皮由来のオルガノイドから肉腫成分と癌腫成分の両方を含む癌肉腫が誘導された。この結果はKras活性化とp53を欠失させた際にも再現され、in vivo, in vitroを通じて初めての癌肉腫のモデルであると考えられた。以上より、子宮内膜オルガノイドを用いてKras依存的な発がんモデルの確立に成功し、遺伝子異常の組み合わせにより異なる組織型の腫瘍も誘導可能であることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

子宮内膜オルガノイドでのKras活性化のみでは腫瘍形成を誘導するのに充分ではなかったが、がん抑制遺伝子のノックダウンを組み合わせたり、培養条件を改変したりすることで様々な組織型の腫瘍が迅速かつ簡便に誘導可能であることを示した。また、Kras活性化と組み合わせてCdkn2aに対するshRNAを導入した際に癌肉腫が誘導されることを見出したが、複数のクローンによる検討では100%の確率ではないためにoff-target効果の可能性が完全には除外できなかった。そこで、ヒト癌肉腫でp53の変異頻度が高いことに注目してp53flox/floxマウスと掛け合わせたマウス由来のオルガノイドを用いたところ、100%の確率で癌肉腫が誘導可能であることを確認した。癌肉腫を再び3次元培養に供したところ、通常の嚢胞型オルガノイド腺癌型)と紡錘形の細胞(肉腫型)のどちらか一方または両方(混合型)が生じたが、再移植により肉腫からは肉腫のみが誘導され、混合型は癌肉腫が誘導され、腺癌型からは腺癌のみまたは癌肉腫のいずれかが誘導された。また、免疫染色により、形態学的には肉腫様でありながら上皮マーカーが陽性の細胞が検出された。これらのことから、癌肉腫の起源は上皮細胞であり、腺癌を経て癌肉腫が出現し、一部の腫瘍では完全に肉腫細胞に置換されている可能性が強く示唆された。また、Kras活性化細胞へのPtenに対するshRNAの導入によりリンパ節転移を伴う腫瘍が誘導されたが、癌化の多段階進展に伴う悪性化ではなく、正常細胞からde novoに転移性がんが出現する点で興味深いと考えらえた。以上のように、当初の予想とは異なる性質を持つ腫瘍も誘導されたが、いずれも疾患モデルとしての有用性が見込まれることから研究は順調に発展しているものと結論した。

今後の研究の推進方策

Kras依存的な発がん過程に関しては、腺癌転移モデルと癌肉腫モデルの確立に至った。ここまでの内容につき、論文としてまとめ、「子宮体癌のオルガノイドレベルのモデルの確立」として現在投稿中である。今後はこれらのモデルを用いて疾患の発症メカニズムの解明を進めていく。具体的にはシングルセル由来のオルガノイドを用いた解析による上皮・間葉転換のタイミングの同定や、ヌードマウス皮下腫瘍の時系列での解剖による腺癌・肉腫の比率の変化からの肉腫が発生するタイミングの同定などがあげられる。さらに、他の癌遺伝子としてPik3caの活性化変異マウスも導入済みであり、PI3K経路の活性化に基づく発がん過程の再現も進めていく。これまでにPik3ca変異単独では腫瘍が誘導されないことを確認しており、他の癌抑制遺伝子のshRNAとの組み合わせや、p53flox/floxマウスと掛け合わせたマウス由来のオルガノイドを用いた発がん誘導が可能か検討していく。Kras変異もPik3ca変異も単独では腫瘍形成に不十分であることを利用して、遺伝子異常との協調作用以外にも環境要因との発がんにむけた相互作用が検出可能かも検討する。子宮体癌では肥満がリスクファクターであることが知られており、肥満を模倣するin vitroの条件を再現することで、新規の発がんモデルの確立が可能になれば、実験系の簡便さも相まって極めて有用性が高くなると考えられる。また、Ptenのノックダウン単独ではin vivoモデルと異なり腫瘍形成が見られなかったことは、本実験系に含まれない子宮の微小環境がPten依存的な発がんに重要であることを強く示唆している。その本態が何であるか、遺伝子変異や様々な増殖因子などを添加することで、探索していくことも重要な展開であると考えられる。

次年度使用額が生じた理由

年度内の納品を見込んでいた消耗品が輸入のため時間を要し、2017年度内に使用しきれなかった。当該試薬は4月中に納品されたため、予定通り予算を使い切ることとなった。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 3件)

  • [雑誌論文] Stemness Is Enhanced in Gastric Cancer by a SET/PP2A/E2F1 Axis2018

    • 著者名/発表者名
      Enjoji Shuhei、Yabe Ryotaro、Tsuji Shunya、Yoshimura Kazuhiro、Kawasaki Hideyoshi、Sakurai Masashi、Sakai Yusuke、Takenouchi Hiroko、Yoshino Shigefumi、Hazama Shoichi、Nagano Hiroaki、Oshima Hiroko、Oshima Masanobu、Vitek Michael P.、Matsuura Tetsuya、Hippo Yoshitaka、Usui Tatsuya、Ohama Takashi、Sato Koichi
    • 雑誌名

      Molecular Cancer Research

      巻: 16 ページ: 554~563

    • DOI

      doi: 10.1158/1541-7786.MCR-17-0393

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Ex vivo model of non?small cell lung cancer using mouse lung epithelial cells2017

    • 著者名/発表者名
      Sato Taku、Morita Mami、Tanaka Ryota、Inoue Yui、Nomura Miyuki、Sakamoto Yoshimi、Miura Koh、Ito Shigemi、Sato Ikuro、Tanaka Nobuyuki、Abe Jiro、Takahashi Satomi、Kawai Masaaki、Sato Masami、Hippo Yoshitaka、Shima Hiroshi、Okada Yoshinori、Tanuma Nobuhiro
    • 雑誌名

      Oncology Letters

      巻: 14 ページ: 6863~6868

    • DOI

      10.3892/ol.2017.7098

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Cilostazol and enzymatically modified isoquercitrin attenuate experimental colitis and colon cancer in mice by inhibiting cell proliferation and inflammation2017

    • 著者名/発表者名
      Kangawa Yumi、Yoshida Toshinori、Maruyama Kiyoshi、Okamoto Minako、Kihara Tohru、Nakamura Michi、Ochiai Masako、Hippo Yoshitaka、Hayashi Shim-mo、Shibutani Makoto
    • 雑誌名

      Food and Chemical Toxicology

      巻: 100 ページ: 103~114

    • DOI

      10.1016/j.fct.2016.12.018

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Identification of novel mutations in Japanese ovarian clear cell carcinoma patients using optimized targeted NGS for clinical diagnosis2017

    • 著者名/発表者名
      Maru Yoshiaki、Tanaka Naotake、Ohira Miki、Itami Makiko、Hippo Yoshitaka、Nagase Hiroki
    • 雑誌名

      Gynecologic Oncology

      巻: 144 ページ: 377~383

    • DOI

      10.1016/j.ygyno.2016.11.045

    • 査読あり
  • [学会発表] 卵巣腫瘍からの3次元培養法の確立に向けた組み2017

    • 著者名/発表者名
      丸 喜明、田中尚武、筆宝義隆
    • 学会等名
      第35回日本ヒト細胞学会学術集会
  • [学会発表] オルガノイドへの遺伝子導入による子宮内膜発がん2017

    • 著者名/発表者名
      丸 喜明、筆宝 義隆
    • 学会等名
      第76回日本癌学会学術総会
  • [学会発表] マウスオルガノイドを用いた子宮内膜発がん過程の再現2017

    • 著者名/発表者名
      丸喜明、筆宝義隆
    • 学会等名
      第32回発癌病理研究会
  • [学会発表] 3次元オルガノイド培養のがん研究への応用2017

    • 著者名/発表者名
      筆宝義隆
    • 学会等名
      第26回日本癌病態治療研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] オルガノイド培養を用いた細胞レベルの子宮体がん発がんモデルの開発2017

    • 著者名/発表者名
      丸 喜明、田中尚武、筆宝義隆
    • 学会等名
      第58回日本臨床細胞学会総会春季大会
  • [学会発表] オルガノイドを用いた発がん過程のin vitro再構成2017

    • 著者名/発表者名
      筆宝義隆
    • 学会等名
      第58回日本臨床細胞学会総会春季大会
    • 招待講演
  • [学会発表] オルガノイド培養を用いた卵巣がん発がんモデルの開発2017

    • 著者名/発表者名
      丸 喜明、田中尚武、筆宝義隆
    • 学会等名
      第106回日本病理学会総会
  • [学会発表] オルガノイド移植モデルおよびPDXによる胆道・膵管発がん再構成2017

    • 著者名/発表者名
      筆宝義隆
    • 学会等名
      第76回日本癌学会学術総会
    • 招待講演

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公開日: 2018-12-17  

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