研究課題/領域番号 |
17K19627
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
亀山 昭彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 上級主任研究員 (80415661)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | ムチン / 分子マトリックス電気泳動 / 糖鎖 / 粘液線維肉腫 / 粘表皮癌 |
研究実績の概要 |
本研究では、骨軟部腫瘍、特に粘液線維肉腫において発現量が変化するムチンおよびその糖鎖について、研究代表者が世界に先駆けて開発したムチン解析法である分子マトリックス電気泳動法を用いたムチンプロファイル解析を行い、従来の病理診断、組織学的悪性度等と対比させることにより、ムチンの種・質・量に着目した粘液線維肉腫に関する新たな疾患概念の確立や、その発生、浸潤性に関わる分子機構の解明、さらには新たな血清診断マーカーの発見を目指す。 これまでに、浸潤性粘液線維肉腫ではムチンはほとんど分泌されておらず、一方でヒアルロン酸が大量に発現されていることを明らかにした。粘液線維肉腫は希少がんであり2020年度は新鮮凍結試料が得られなかったため、関連疾患として、粘液線維肉腫と同様に粘液を産生する悪性腫瘍である粘表皮がんのムチンについて分子マトリックス電気泳動による分析を行った。唾液腺粘表皮癌3例および正常唾液腺6例の凍結組織からムチンを抽出し、分子マトリックス電気泳動により分離パターンを比較、MUC1抗体で泳動膜を染色するとともに、各ムチンの糖鎖を質量分析計にて解析した。その結果、粘表皮癌全例でムチンの発現が確認され、そのムチンがMUC1であることが抗体染色より明らかとなった。一方、正常唾液腺からもムチンは検出されたがMUC1抗体で染色されるバンドはなかった。分離された各ムチンの糖鎖を解析したところ、粘表皮癌のMUC1はほぼ全てシアル酸を含む糖鎖で構成されており、特にシアル酸を有するコア2型の糖鎖構造が多量に含まれることが明らかとなった。一方、正常唾液腺のムチンではシアル酸を含む糖鎖は少なく、代わりにフコースを含む糖鎖が多く存在していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに浸潤性粘液線維肉腫のムチンプロファイル解析を行ったが、浸潤性粘液線維肉腫ではムチンはほとんど分泌されておらず、一方でヒアルロン酸が大量に発現されていることを明らかにした。非浸潤性の粘液線維肉腫との比較を行い浸潤性との関連を究明する予定であったが、粘液線維肉腫は希少がんであり新鮮凍結組織を得ることができなかったため、昨年度に過去の症例のホルマリン固定組織を用いたムチンプロファイル解析を可能とするべくその方法論の検討を開始した。しかし、ホルマリン固定組織を溶解するための薬品処理によりムチンが分解することが明らかとなった。そこで関連疾患として、粘液線維肉腫と同様に粘液を産生する悪性腫瘍である粘表皮がんのムチンの解析を開始した。以上のように、研究を進めていく中で予期しない結果に直面したため予定よりも進捗はやや遅れている。またCOVD19によるテレワークなど実験ができない期間があったこことも遅延の理由となった。
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今後の研究の推進方策 |
粘液線維肉腫は希少がんであり検体数が少ない。これまでに蓄積されたホルマリン固定パラフィン包埋検体が利用できれば、より短期間で病態とムチンプロファイルとの相関を明らかにできる可能性があったが、技術的な問題でそれも難しいことが判った。そこで粘液線維肉腫関連疾患として、同じように粘液を産生する腫瘍である粘表皮がんについても同様の実験を開始し、このがんがシアル酸化されたコア2型糖鎖を有するMUC1を発現していることを明らかにした。今後は、この特徴的な糖鎖を有するMUC1の組織内における局在を明らかにするため免疫組織染色を行ない、さらにはムチンやその糖鎖がどのように病態発現に関与するか、そのメカニズム解明へつながる知見を得る計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究対象である粘液線維肉腫は希少がんであるため新鮮凍結組織を予定通り入手できていない。過去の症例のホルマリン固定組織を用いたムチンプロファイル解析の検討を行ったが技術的な問題に直面した。そこで関連疾患として粘表皮がんのムチンの解析を開始したが、COVID19によるテレワークの実施など約2か月の実験停止期間があった。2021年度はその遅れを取り戻すべく、引き続き粘表皮がんのムチンの解析、特にMUC1に結合する糖鎖の詳細な構造解析とこの糖鎖を有するMUC1の粘表皮がん組織内における局在を明らかにするため、実験補助員を3か月間雇用する。また、これらの実験を実施するための消耗品費として利用する計画である。
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