研究課題/領域番号 |
17K19628
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
関戸 好孝 愛知県がんセンター(研究所), 分子腫瘍学部, 副所長兼部長 (00311712)
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研究分担者 |
佐藤 龍洋 愛知県がんセンター(研究所), 分子腫瘍学部, 主任研究員 (70547893)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 癌 / 中皮 / 炎症 / 分子標的 |
研究実績の概要 |
中皮細胞の特性を解明するために、当グループが独自に樹立した不死化正常中皮細胞株 (HOMC株) 3種を用いた。まず、これら不死化細胞の核型をQ-Band法により解析したところ、わずかな染色体構造異常が見られたが、腫瘍細胞にみられるような高度のゲノム不安定性は確認されなかった。また、悪性中皮腫に特徴的なNF2, BAP1, p16, LATS1/2の発現欠損は見られず、樹立した細胞株はがん化していない不死化細胞株であることが確認された。3種の細胞株 (HOMC-B1、D4、A4) は通常の2D培養下にて、それぞれ上皮型、中間型および肉腫型の形態の細胞形態を示すが、アクチン細胞骨格を免疫染色法により観察し、その形態を詳細に確認した。3種の細胞株の増殖速度を測定したところ、細胞株間で有意な差は見られなかった。一方、3D培養を行ったところ、どの細胞株においても著しい増殖速度の低下が見られた。これら細胞株からRNAを抽出してマイクロアレイ解析を行い、約22,000の遺伝子発現パターンを得た。さらに抗体アレイを用いて、HOMC-B1、D4、A4におけるチロシンキナーゼ受容体群のリン酸化(活性化)状態を解析した結果、HOMC 各株において特定のチロシンキナーゼ受容体の活性パターンを見出した。 上皮間葉転換(EMT)の易誘導性、もしくはEMTの抵抗性の表現型を示す細胞を分離するため、細胞遊走能を評価する実験系の条件検討を開始した。ボイデンチャンバーを用いた細胞遊走実験において最適なHOMC細胞株の細胞数、培養時間を決定した。また中皮細胞の運動能の制御経路を特定するために、同実験系を用いてTGFbetaなどの各種増殖因子がHOMC細胞株に与える細胞遊走刺激を個別に検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中皮細胞の特性を理解するために、当グループが樹立した不死化正常中皮細胞株を用い、それらの核型、形態学的特徴、マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現パターンを解析することができた。また、アッセイ系の構築においても、用いる細胞数・細胞密度や培養時間の検討、チロシンキナーゼ受容体のリン酸化状態の解析を元にしたサイトカイン等の刺激による反応性の検討が進んでおり、中皮細胞にEMTが誘導されやすい形質を規定する分子機構の解明に向けて、研究は概ね予定通りに進んでいるといえる。 中皮細胞のアノイキス抵抗性の分子機構の解明と治療標的候補の同定に向けた研究においては、HOMC細胞株のアノイキス抵抗性が転写活性化因子YAP,TAZの発現によって上昇するデータを得たことから、当初予定していたリン酸化プロテオーム解析ではなく、まず、YAP、TAZによる下流遺伝子の転写発現量の変化の解析を中心に研究を展開することとした。そこで、マイクロアレイ解析を実施し、上皮型・間葉型・中間型の形態を示す不死化正常中皮細胞株HOMC株3種の2D培養時の遺伝子発現量の網羅的解析を完了した。HOMC細胞株は浮遊状態での培養において増殖が著しく低下するため、発現量解析を行う前に細胞状態の詳細な検討が必要と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
不死化正常中皮細胞株(HOMC細胞株)の遊走能を促進、もしくは阻害する細胞外因子(成長因子、サイトカイン等)を同定する。また、EMT易誘導性、もしくは抵抗性の細胞を選択培養するためのボイデンチャンバーを用いた細胞遊走アッセイの条件検討を進める。EMT易誘導性のモデル細胞として細胞遊走を促進Rac1 active mutant (G12V) を発現した細胞株を、また、EMT抵抗性のモデル細胞として細胞遊走を阻害するRac1 negative mutant (T17N) を発現した細胞株をそれぞれ作製し、これらの細胞と親株を共培養してEMT易誘導性、抵抗性細胞を選択的に濃縮培養される系の確立を目指す。 アノイキス抵抗性の分子機構の解析においては、HOMC細胞株の3D培養条件を検討し、細胞の生存・増殖・細胞死・細胞形態などについて解析を行った後、遺伝子発現の網羅的解析を進める。さらにアノイキス抵抗性を賦与する因子の探索を行い、候補分子が同定された際にはRNA干渉法や阻害剤等の検討により、アノイキス抵抗性が影響を受ける分子・シグナル伝達系の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が概ね順調に遂行したが、若干の次年度使用額が生じた。次年度には適切に使用することを計画している。
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