中皮細胞は上皮細胞に比べて、特徴的な細胞特性を呈する。その特性の中には上皮間葉転換(EMT)の易移行性およびアノイキス抵抗性があげられる。当研究グループが独自に開発した不死化正常中皮細胞株(HOMC)を用いて解析を行い、細胞特性を基盤とした治療戦略の構築を試みた。 同一症例からサブクローニングによって得られたHOMC-B1は上皮型、HOMC-D4は中間型、HOMC-A4は肉腫型を呈することから極めて有用なモデル細胞系と考えられた。超低接着表面ディッシュを用いた3次元培養における細胞増殖能やボイデンチャンバー法を用いた遊走能を検討した。細胞株に対して各種のサイトカインを投与し、増殖能や遊走能に関する変化を検討した。さらにマイクロアレイ解析によるRNA発現の検討を進めた。これらの結果から、上皮型HOMC-B1は他に比べて極めてアノイキスの感受性が高いことが明らかとなった。 最終年度はこれらの解析結果の確認を進めるとともに、悪性中皮腫細胞で高頻度に破綻しているHippoシグナル伝達系を標的とした阻害剤を用いた検討を行った。その結果、悪性中皮腫細胞株では極めて高い感受性を示す細胞株が認められる一方、HOMCの3株はいずれも高度の耐性を示した。 さらに、不死化中皮細胞と悪性中皮細胞を混合培養して相互の増殖の影響について解析を進めた。悪性中皮腫細胞側を蛍光ラベルし、様々な比率や培養条件で観察した結果、中皮細胞が悪性中皮腫細胞の増殖促進に寄与することが示唆された。 以上の結果により中皮細胞の特性の分子・細胞メカニズムの一端が明らかとなり、中皮細胞が主座となる病態への新たな治療戦略への応用が期待された。
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