研究課題/領域番号 |
17K19632
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 克樹 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (70243110)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 脳機能イメージング / コモンマーモセット |
研究実績の概要 |
近年、神経活動の履歴を全脳で見ることができ、各条件間の差を定量化できる定量的神経賦活マンガン造影MRI法がげっ歯類で試みられている。本研究では、この方法の有用性に注目し、小型霊長類であるマーモセットを用いて神経活動を全脳で可視化し、コミュニケーションに関わる神経ネットワークを明らかにすることを目的とする。 1) マンガン投与量および投与方法・経路の検討:先ず、塩化マンガン溶液を動物に投与する際の投与量および投与方法・経路を検討した。動物への負担が少なく、且つ神経活動を描出できるコントラストが得られる方法であることが必須である。初回実験の投与量はげっ歯類での先行研究を基に調整し、マーモセット2頭で実験を実施した。 2) テスト運動課題の負荷:手法の有用性の評価のため、まずテスト条件での神経活動の描出を試みた。関与する脳領域が既に明らかになっている運動系に着目し、マンガン注入後に片側前肢の動きをソフトに制限して飼育し、一定時間後にMRI撮像を行った。マンガン注入から撮像までの時間は、げっ歯類での先行文献を基に48時間とした。運動制限した前肢と同側および反対側の運動領域の賦活を比較して、十分に対側運動野の神経活動の賦活が描出できているかを検討した。T1 緩和時間を簡便に計測できるマッピングツールを用い、各組織のT1 緩和時間を計測し、条件間で比較した。今後、撮像条件や実験条件を再検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は2頭のマーモセットを用いて投与スケジュールおよび毒性の検討および撮像プロトコールの調整を実施した。まず、げっ歯類での先行文献に倣い、0.2mmol/kg BWの塩化マンガン水溶液を48時間おきに2回腹腔内投与した。同じげっ歯類でもマウスとラットでも毒性の出方が異なるという報告もあり、マーモセットにおける体調への変化を観察した。2頭とも、2回目のマンガン投与後に軽度の動作緩慢や食欲低下が見られたものの、1-2日程度で通常の動きに戻った。また、マンガン投与後にテスト課題として片側前肢の行動を制限し、投与前と後でT1 mapを撮像した。投与前後のMRI画像を解析することで塩化マンガンの脳への蓄積を確認した。今回の予備実験で、げっ歯類とは異なり、マーモセットでは溶液のpH調整が必要なこと、また全身毒性は許容範囲であることが分かった。今後、頭数を増やし、画像解析および本実験を進める。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はテスト実験の頭数を増やして実施し、運動課題負荷前後での画像で差が出るかどうかを検討する。その後、実際にマーモセットが他個体との社会交渉が可能な条件と社会交渉を制限する条件を用いて両条件間で脳活動を比較し、社会交渉に関わる脳領域を同定する。具体的には、複数個体で同居しているマーモセットを被験体とし、被験体の飼育ケージに仕切りなどを用いて同居他個体との社会的交渉(身体的接触・視覚コミュニケーション・音声コミュニケーション)を制限するような状況を作り出す。実験で得られた成果については国内外での学会等で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を遂行するに際して非常に重要な役割を果たしてくれていた研究協力者が病気になり、長期療養が必要となった。そのため、当初予定していた実験が進められなくなった。幸い、研究協力者の体調が徐々に回復し、実験参加の目処がたったこと、また新たに研究員の参加が見込める状況となったことから、予定していた研究を推進できると判断した。当初の計画を推進するために、人件費と必要な消耗品の支出を予定している。
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