研究課題/領域番号 |
17K19633
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
水田 恒太郎 京都大学, 医学研究科, 助教 (60632891)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 記憶 / 固定化 / リプレイ / 前帯状皮質 / カルシウムイメージング |
研究実績の概要 |
てんかん治療のため海馬を切除されたHM氏は新しいことを思い出すことは全くできなかったが、少年の頃の事は思い出すことができた。この症例からもわかる通り、記憶の中でも陳述記憶は初め海馬でコードされるが、時間が経つにつれ、海馬以外の脳領域に移行していくと考えられている。これを記憶固定化と呼ぶ。記憶の固定化の神経回路メカニズムの詳細は不明であるが、一つ、動物が静止状態や睡眠中にあるときに観察されるreplay現象が関与すると考えられている。本研究では、どの大脳皮質領域のどの細胞種に記憶が固定化されていくかを、メゾスケールからシナプスレベルまでの範囲で明らかにしていく。 固定化を起こした大脳皮質細胞とシナプスの同定するために、抑制性回避学習をマウスに行わせ、30分後と35日後それぞれ別のマウスから脳スライスを摘出し、パッチクランプ法により前帯状皮質(ACC)の2/3層領域の興奮性神経細胞の活動を記録した。学習直後にはAMPA/NMDA比は変化しないが、35日以降でAMPA電流が大きくなった。一方、海馬では学習後すぐに大きくなることから、記憶の固定化により記憶はACCに転送されている可能性が高い。 次に、興奮性細胞特異的にカルシウム感受性蛍光蛋白質G-CaMP7を発現するCaMKIIα-tTA x TRE-G-CaMP7マウスを用い、ACCの第2/3層の興奮性神経細胞の活動をカルシウムイメージングにより記録した。学習初期では場所細胞様活動は見られないが、数日後に場所特異的な活動やcontext依存的に活動する細胞が現れることを発見した。一方、海馬では、場所細胞はすぐに形成されることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、電気生理学的手法とカルシウムイメージングにより、記憶の固定化による海馬からの投射先は、前帯状皮質が有力であり、その第2/3層の錐体細胞が主に反応していた。また、海馬とは異なり、長期記憶として転送されることで前帯状皮質の反応が強くなったことから、記憶の固定化による反応であることが考えられる。したがって、本研究は、申請した研究計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
カルシウムイメージングで前帯状回皮質の細胞の活動を記録すると同時に、海馬で局所場電位をreplayを判断するripple波を記録する。海馬でripple波に伴うメゾスケールの神経活動が前帯状皮質で観察されると期待される。 記憶の固定化に伴い大脳皮質でLTPが起こっているかの解析には連携研究者の林らが以前開発したAMPA受容体の電気生理学的taggingを用いる。AMPA受容体サブユニットGluA1を過剰発現すると、整流特性が内在受容体と異なるホモ四量体を形成する。これを用い海馬LTP誘導や体性感覚入力により体性感覚野でAMPA受容体のシナプスへの挿入が起こっていることを実証した(Hayashi, 2000, Takahashi, 2003)。GluA1を発現する細胞を全細胞記録し局所電気刺激あるいはCre依存的に発現したChR2やケージ化グルタミン酸を用い特定のシナプス前細胞を刺激することで、記憶固定化に伴いどのシナプスでLTPが起こったかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度で購入した領収書が次年度に繰り越された。 また、得られた大規模解析や局所場電位記録などによるデータ取得における物品費や人件費、学会等での成果発表や情報収集など多額の助成金を次年度に参上した。
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