研究課題/領域番号 |
17K19635
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
椛 秀人 高知大学, 医学部, 特任教授 (50136371)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 嗅覚コミュニケーション / ミトコンドリア由来ペプチド / ブルース効果 / 個体認識 / 鋤鼻系 |
研究実績の概要 |
マウスの嗅覚コミュニケーションを司る匂い、特に個体認識に関わる匂いの化学的実体については、MHCペプチド、MUP(Major Urinary Protein)、ESP(Exocrine-gland Secreting Peptide)などが提唱されているが、その一端が解明されたに過ぎない。申請者は、ミトコンドリアゲノム由来の呼吸鎖酵素NADH dehydrogenase 1 (ND1)、cytochrome c oxidase 1 (CO1)、NADH dehydrogenase 2 (ND2)のN末端のアミノ酸配列(9残基からなるペプチド)がマウスの系統間で異なることに着目した。本研究では、これらのペプチドが体外に分泌され、個体認識の手がかりとなる匂い分子として機能しているとの作業仮説を立て、これを行動・イメージング・電気生理を用いて検証することを目的とした。 平成29年度において、まずミトコンドリアゲノム由来ペプチドが系統特異的妊娠阻止反応(ブルース効果)を惹起するか検討した。8種類のホルミル化されたペプチドはどれも妊娠阻止を起こさなかったが、脱ホルミル化されたペプチドのうち非自己のペプチドは程度を異にして妊娠阻止を惹起した。特にND1-6A(N末端から6番目のアミノ酸残基がアラニンであることを示す)とND2-7T(N末端から7番目のアミノ酸残基がスレオニンであることを示す)によって有意に高い妊娠阻止率(各々69%と54%)が得られた。ND1-6Aの効果は、すでに妊娠阻止効果を持つことが示されているMHCペプチドAAPDNRETFと同程度の強さであった。以上の結果は、脱ホルミル化されたミトコンドリアゲノム由来ペプチドが同系統と他系統の識別の手がかりとなる匂い分子として機能していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度において、ミトコンドリアゲノム由来ペプチドが系統特異的妊娠阻止反応(ブルース効果)を惹起するか否かを明らかにするための実験を完成に終了し、予定の70%を達成することができた。この実験に続いて、ミトコンドリアペプチドが尿などを介して体外に分泌されていれば、Balb/cの雌はNZBの雄との交尾のときにNZBのペプチドを嗅いで記憶し、そのペプチドをfamiliarなものと認識することでNZBのペプチド(ND1-6A)に反応しなくなるはずであるとの作業仮説を検討する予定であったが、この実験がまだ終わっていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策について、ミトコンドリアペプチドが交配雌マウスによって記憶されるか否かを明らかにする。さらに、ブルース効果が母性遺伝するかという問いに答えるための実験を行う。自然に分泌されたミトコンドリアゲノム由来ペプチドによってブルース効果が起これば、ブルース効果に母性遺伝が観察されることが期待される。そこで、BALB/cとNZBの正逆交雑によりF1を得て、その尿の妊娠阻止効果を検討することにより母性遺伝を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ミトコンドリアペプチドが交配雌マウスによって記憶されるか否かを明らかにする実験が終了しておらず、次年度に引き継ぐことになったため、次年度使用額が生じた。この額は本実験の消耗品の購入に必要である。
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