研究課題/領域番号 |
17K19640
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
久下 裕司 北海道大学, アイソトープ総合センター, 教授 (70321958)
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研究分担者 |
志賀 哲 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (80374495)
東川 桂 北海道大学, アイソトープ総合センター, 助教 (10756878)
木村 寛之 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (50437240)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | PET / 薬剤合成装置 / オン・デマンド |
研究実績の概要 |
PET薬剤の製造には、高額設備(ホットセル、PET薬剤合成装置、品質管理設備など)、清浄環境、ならびに熟練技術者の確保が必要である。また、現在のPET薬剤合成装置は大量製造型が主流であり、個々の患者に対してPET薬剤を個別に必要量供給する「オン・デマンド供給」には対応できない。本研究の目的は、高額なホットセル、PET薬剤合成装置を統合・小型化し、オン・デマンド供給を可能とする新規PET薬剤製造装置の構築を目指すことにある。以下に平成29年度の実績の概要を示す。 ①自己遮蔽型小型合成装置の開発:合成装置本体サイズ20×20×20cm、総重量250kg以下を目標として検討を行った。構成部品(電磁弁、反応容器など)の高密度集積により目標サイズを達成した。現在、プロトタイプによる動作確認を行なっている。一方、ディスポチップは、流路構成の最適化により縦5.4cm、横14.3cmの平面に集約することができた。現在、3Dプリンタによる試作、ならびに合成装置との適合性について検討している。装置重量は、10GBqの18F放射能の取扱を想定し、装置表面の実効線量率を25μSv/h以下となる遮蔽体構成を検討した。その結果、反応容器そのものを高い遮蔽能力を有するタングステンで遮蔽することで、合成装置外側の遮蔽厚(鉛)を薄くできることを確認した。これらにより、装置の総重量は目標を大幅に下回る130kg程度になる見込みである。 ②少量合成に適応しうる新規PET薬剤合成法の開発:PET薬剤18F-FMISOをモデル化合物として、新規フッ素化法について検討した。その結果、合成時間の大幅な短縮、合成工程の簡略化、さらに核種の飛散リスクが少ない大気圧環境による反応(従来法は加圧環境)を可能とした新規製造法を考案することができた。現在、複数のPET薬剤への適応を確認中であり、並行して特許出願の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、高額なホットセル、PET薬剤合成装置を統合・小型化し、オン・デマンド供給を可能とする新規PET薬剤製造装置の構築を目指すことにある。 目的達成に必要な要素は、①自己遮蔽型小型合成装置の開発、②少量合成に適応しうる新規PET薬剤合成法の開発に大別される。これらの項目について、平成29年度は以下に示す進捗が見られた。 ①自己遮蔽型小型合成装置の開発:合成装置本体サイズは、実装する部品(電磁弁、反応容器など)の配置を0.1 mm 単位で調整し、立体的かつ高密度集積により目標を達成した。一方、重量に関しては、合成装置内部からの放射線を遮蔽するための遮蔽材厚さについて、様々な条件(遮蔽材の材質、厚さなど)を想定し計算した結果、反応容器を高い遮蔽能力を有するタングステン等で遮蔽することで、装置外側の遮蔽を低減できることが確認された。これにより、装置重量(計算値)は当初の目標を大幅に下回る130kg程度にできる見込みである。 ②少量合成に適応しうる新規PET薬剤合成法の開発:PET薬剤18F-FMISOをモデル化合物として、合成に必要な機械的・化学的条件をスクリーニングし、少量合成にも適応する新しい製造法を検討した。その結果、合成に必要な時間を大幅に短縮し(37→13min)、合成に必要な工程を簡略化し、さらに核種の飛散リスクが少ない大気圧環境による反応(従来法は加圧環境)を可能とした新規製造法を考案した。本製造法により、放射性核種18F(半減期:約110min)の減衰によるロスが10%以上緩和され、さらに装置構成もより簡便にできる。また、本製造法は現在、複数のPET薬剤への適応を確認中であり、並行して特許出願の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
目的達成に必要な要素を①自己遮蔽型小型合成装置の開発、②少量合成に適応しうる新規PET薬剤合成法の開発に大別し、平成30年度の推進方策を以下に示す。 ①自己遮蔽型小型合成装置の開発 合成装置のプロトタイプは平成29年度に完成した。これをもとに、各構成要素・部品等の微調整・最適化を行う。また、合成装置を覆う遮蔽材(鉛)については既に設計が完了したので、平成30年度は設計に基づくに製作を進める。なお、鉛は材質として柔らかく、変形しやすいため、鉛遮蔽材の補強や化粧板による表面被覆を行なう。ディスポチップについても既にに設計が完了したので、その製作をすすめる。また、平成29年度に製作が完了た遠隔制御ソフトウェアを用い、制御機能の詳細な確認を行なうとともに、装置との互換性向上について検討を行する。平成30年上半期中に上記研究項目を完了し、下半期には放射線遮蔽能力の確認、PET薬剤の合成試験などを行い、不具合箇所の確認とその修正を実施する予定である。 ②少量合成に適応しうる新規PET薬剤合成法の開発: 平成29年度に考案した新規PET薬剤製造法について、他製剤への適応可能性について引き続き検討を行なう。また、新規製造法に関する特許申請の準備を並行して行なっており、平成30年度8月頃に特許申請を行なう計画で準備を進めている。特許申請後、本製造法について学会発表を行なう予定である。
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