研究課題
若齢(8週齢)、高齢(52週齢)の野生型マウスC57BL/6Jに対して、膵β細胞の強力な増殖刺激である膵部分切除を実施し、切除術前後の膵島細胞に対して、ATAC-Seqによる網羅的オープンクロマチン解析、シングルセルレベルでのRNA-seq(scRNA-seq)によるトランスクリプトーム解析を行うことで増殖能をもつ膵β細胞について解析を行った。結果、1)遺伝子発現の違いにより膵β細胞は4つの亜集団に分類されること、2)亜集団のひとつは細胞増殖に関連した遺伝子群を発現する増殖β細胞からなることを見出した。さらに若齢マウスにおいて、増殖β細胞からなる亜集団は、膵部分切除術により増加するが、高齢マウスでは増殖β細胞は刺激前後でほとんど認められなかった。興味深いことに、scRNA-SeqとATAC-Seqの統合解析から膵β細胞増殖制御に関与すると考えらえる新規転写因子を同定することに成功した。今後、遺伝子改変マウスを作成、解析することで、同定した転写因子について膵β細胞の増殖における役割を検討する予定である。生体内における膵β細胞増殖を可視化すべく膵β特異的に細胞周期プローブを発現する遺伝子改変マウス(βFucci2aRマウス)の樹立に成功した。膵β細胞増殖を刺激するインスリン受容体拮抗薬S961を投与下にBrdUラベルしたβFucci2aRマウスの膵島を免疫組織染色により解析したところ、BrdUによる従来の評価系と矛盾することなく膵β細胞増殖を評価できることを確認した。また透明化技術を組み合わせることで、個体における膵β細胞増殖をより簡便に定量化することに成功した(投稿中)。一方、生体内における膵β細胞増殖のリアルタイム・モニタリングを試みたが、増殖するβ細胞が少ないことに加え、マウスを生かしたまま、G0からM期まで全細胞周期を観察することは難しく、現在、条件検討を行っている。
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