研究課題/領域番号 |
17K19657
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高山 和雄 大阪大学, 薬学研究科, 助教 (10759509)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | zonation / 肝細胞 / ヒトiPS細胞 / 肝障害 / 胆管上皮細胞 / 創薬 / 異物代謝 / 分化誘導 |
研究実績の概要 |
肝障害は、①肝臓がびまん性に障害を受けるものと、②不均一に障害を受けるものの2種に大別される。②の例として、門脈域のzone1肝細胞が障害を受けるウイルス性肝炎、中心静脈域のzone3肝細胞が障害を受ける薬物性肝障害などの数多くの『zone特異的な肝障害』がある。肝障害にzone特異性が生じる原因は、肝細胞がzoneに応じた特異な機能を有することにあるが、肝障害研究に使用される既存のヒト肝細胞モデルはzone特異的な機能を持たない。そのため、現行の創薬技術では、肝臓のzonationを加味した肝障害の予防法や治療技術の開発が実施できない。そこで本研究では、zone特異的機能を獲得したヒトiPS細胞由来肝細胞の作製法を開発した。しかし、肝臓のzonation形成機構はほとんど明らかになっていないため、肝臓を構成する種々の細胞が織りなす相互ネットワークを手掛かりにzone特異的肝細胞の作製を目指した。その結果、肝細胞同士の相互作用解析によりWnt7BおよびWnt8Bがzone3肝細胞の形成に関与し、肝細胞―胆管上皮細胞間の相互作用解析によりWNT inhibitory factor 1(WIF-1)がzone1肝細胞の形成に関与することを見出した。今後、Wnt7BやWnt8B、WIF-1を過剰発現することにより、さらにzone特異性を高めた肝細胞の作製を実施したい。さらに、Wnt7BやWnt8B、WIF-1による肝細胞のzone特異性獲得に関する詳細なメカニズム解析を実施するとともに、zone特異的肝細胞を用いた創薬試験等を実施していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、研究代表者らは、ヒトiPS細胞由来肝細胞を肝細胞の培養上清を用いて培養することによりzone3肝細胞、胆管上皮細胞の培養上清を用いて培養することによりzone1肝細胞を作製できることを見出していた。本研究では、胆管上皮細胞および肝細胞の培養上清に含まれる液性因子等の中から、zonation形成に関わる因子の同定を試みた。胆管上皮細胞および肝細胞において、肝臓のzonation形成に関与すると言われているWntシグナルに関連する因子の発現プロファイルを取得し、zonation形成因子の絞り込みを実施した。その結果、胆管上皮細胞および肝細胞においてWnt7BとWnt8Bが高発現しており、胆管上皮細胞のみでWIF-1が高発現していることを見出した。また、ヒト肝臓の生検サンプルを用いた免疫染色実験を実施したところ、胆管上皮細胞がWIF-1を高発現していることが確認できた。 次に、Wnt7BとWnt8B、WIF-1が、肝細胞のzone特異的機能の獲得に関与するかどうか調べた。Wnt7BとWnt8B、WIF-1をノックダウンした胆管上皮細胞および肝細胞の培養上清を用いてヒトiPS細胞由来肝細胞の培養を行い、zone特異的肝機能を解析した。その結果、肝細胞におけるWnt7BとWnt8Bをノックダウンすることにより、zone3特異的機能が消失すること、胆管上皮細胞におけるWIF-1をノックダウンすることにより、zone1特異的機能が消失することを確認した。以上のことから、肝細胞が産生するWnt7BとWnt8Bがzone3肝細胞形成に関与し、胆管上皮細胞が産生するWIF-1がzone1肝細胞形成に関与することが示唆された。 以上の研究成果から、当該年度は、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトiPS細胞由来肝細胞のzone特異的肝機能獲得に関与すると予想されるWnt7BやWnt8Bは培養液中での半減期が短く不安定である。より高いzone特異的肝機能を有したヒトiPS細胞由来肝細胞を作製するために、高濃度のzonation形成因子を暴露する実験を行う。Zonation形成因子を搭載したアデノウイルスベクターの作製も行い、zonation形成因子をヒトiPS細胞由来肝細胞に遺伝子導入する実験を行う予定である。 本研究で作製したヒトiPS細胞由来zone特異的肝細胞を用いて、zone特異的な肝障害を予測できるか検討する。アセトアミノフェン(APAP)、フェノバルビタール(PB)などの薬物は中心静脈域に強い細胞障害を引き起こすことが知られている。そこで、zone特異的肝細胞を用いて、APAPやPBによる肝毒性をin vitroで再現できるか検証する。
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