平成29年度までに、肝細胞同士(あるいは肝細胞と非実質細胞の間)の相互作用解析によりWnt7BおよびWnt8Bがzone3肝細胞の形成に関与し、肝細胞―胆管上皮細胞間の相互作用解析によりWNT inhibitory factor 1(WIF-1)がzone1肝細胞の形成に関与することを見出した。平成30年度は、Wnt7BやWnt8B、WIF-1を過剰発現することにより、さらにzone特異的な機能を高めたヒトES/iPS細胞由来肝細胞の作製を実施した。しかし、ヒトES/iPS細胞由来肝細胞のzone特異的肝機能獲得に関与するWntシグナル関連因子は培養液中で不安定である。そのため、本研究では、Zonation形成因子を搭載したファイバー改変型アデノウイルスベクターの作製を行い、Zonation形成因子をヒトES/iPS細胞由来肝細胞に遺伝子導入する実験を行った。その結果、Wnt7BあるいはWnt8Bを過剰発現することにより薬物代謝能などのzone 3機能が向上し、WIF-1を過剰発現することにより、尿素産生能などのzone 1機能が向上した。続いて、zone特異的ヒトES/iPS細胞由来肝細胞を用いて、zone特異的な肝障害を予測できるか検討した。薬物代謝能が向上しているzone 1およびzone 3ヒトES/iPS細胞由来肝細胞に対して、アセトアミノフェンを作用させたが、細胞生存率に顕著な差が認められなかった。現在、アセトアミノフェンの代謝物の量を測定することにより、細胞生存率に差が生じなかった原因を究明中である。
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