研究実績の概要 |
本課題では、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)で現状用いられている唯一の腫瘍選択的ホウ素製剤であるアミノ酸誘導体L-BPA (L-borono- phenylalanine)に対して、これを基質として細胞内へ取り込むためのL-アミノ酸トランスポーター(LAT)のうち、正常細胞に選択的に発現しているLAT2を標的とする選択的阻害薬の有用性を評価することを目的とした。LAT2阻害剤KYT-0284は、2-ベンジルオキシベンズアルデヒドを原料として、10の行程で最終産物として合成された。途中生成するメタチロシンはラセミ体として合成されるため、これを酵素の高い不斉識別能を利用し、一方のみのエナンチオマーを選択的に反応させる方法を長期に亘り考慮したものの、十分な光学異性体の濃縮が困難であった。 次に本薬剤を用いて[14C]-Leuの取り込み阻害能をアフリカツメガエル卵母細胞のLAT1,2,3,4それぞれの強発現体を用いて評価したところ、KYT-0284はLAT2を4.2±0.4%まで減少させた一方で、LAT1についても15.0±0.5%まで減少させ、LAT2選択の特異性が比較的弱いことが明らかとなった。LAT3およびLAT4に対しては阻害作用を全く示さなかった。次にSASおよびA172ヒトの癌細胞株を用いたBPA取り込みに対する阻害作用を評価した。まずシーケンサーを用いた発現解析では、いずれの細胞のおいてもLAT2はLAT1に比して発現は微小であった。これらの単一細胞のBPA取り込みを評価するためICP質量分析装置を用い、ppbオーダーのBPA量の定量プロトコルを検討したが、ICP-MSはppmオーダーの定量は逆に困難であること、解析時のバッファーへの懸濁状態においてBPAがミリ秒のオーダーで細胞内から流出してしまうことが明らかとなり評価を達成し得なかった。
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