研究課題/領域番号 |
17K19672
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
伊藤 雅史 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究部長 (80393114)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | Mitochondrial particle / 細胞間クロストーク / ミトコンドリア機能異常 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、近年新たに提唱された機能的なミトコンドリアを含むMitochondrial particle(MP)を介した細胞間相互作用の生理的・病理的な役割と意義を解明することを目的としている。具体的に、ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異を有するミトコンドリア病のモデル細胞を用いて、MPに存在するタンパクのプロファイリングとミトコンドリア機能が異なる細胞間でのMPを介したクロストークの検証、さらに脳組織からのMP単離法の確立と老化及び神経変性疾患に伴うMPの変化を明らかにする。 平成29年度は、mtDNA変異を持たないコントロールサイブリッド(2SA細胞)の細胞培養上清からMP分画を回収し、プロテオーム解析を実施した。その結果、1606個のタンパクが同定された。同定されたタンパクの遺伝子についてGO解析を行った結果、「mitochondrion」のGO termが付加されている遺伝子が200種類存在し、データベースに登録されたヒト全遺伝子群と比較して、同定されたタンパクの遺伝子群では有意に出現頻度が高いことが分かった。実際に検出されたタンパクには、呼吸鎖複合体構成タンパク、ミトコンドリアに局在する代謝酵素、ミトコンドリアのタンパク質翻訳に関与する因子などが多数含まれていた。従って、コントロールサイブリッドである2SA細胞の培養上清のMP分画には、ミトコンドリア局在タンパクが存在し、MPが回収されたと考えられた。この成果を基に、mtDNA変異を有するサイブリッド2SD細胞のMP中のタンパクのプロファイリング、ミトコンドリア機能が異なる細胞間でのMPを介したクロストークの検証に進むことができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、ミトコンドリア病のモデル細胞でのMPを介したクロストークの解析を計画していた。具体的に、(1)細胞培養液からのMP単離法の確立、(2)MPの形態観察、(3)MPのプロテオーム解析、(4)MPの取り込みと細胞内局在の観察、(5)MPを介したミトコンドリアDNAのクロストークの検討、(6)MPが細胞に与える影響の検討を予定していた。これまでに、(1)と(3)を実施し、コントロール細胞の培養上清から回収したMP分画にミトコンドリアタンパクが多数存在することを明らかにした。MPに関する報告は限られており、全ての細胞からMPが放出されているかどうかは不明である。今回の結果から、本研究で使用するサイブリッド細胞からもMPが放出されている可能性が考えられ、申請時に計画したミトコンドリア機能が異なる細胞間でのMPを介したクロストークの解析が可能であることが分かった。当初の計画を全て実施することはできなかったが、重要な課題の一つであったサイブリッド細胞からのMPの単離法が確立され、やや計画からは遅れているものの、順調に進んでいるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、mtDNA変異を有するサイブリッド2SD細胞の培養上清から回収したMP分画のプロテオーム解析を行い、コントロール細胞のプロファイルと比較し、それぞれの特徴を明らかにする。その後、MPの取り込みと細胞内局在の観察、MPを介したミトコンドリアDNAのクロストークの検討、MPが細胞に与える影響の検討を行い、ミトコンドリア機能が異なる細胞間でのクロストークの役割と意義を検討する。 また当初の計画では、実験動物または臨床検体の凍結脳から単離したMPプロファイリングを行う予定であった。しかしながら、MPを介した細胞間クロストークを解明する上で、細胞レベルでのより詳細な解析が必要になる可能性がある。その場合は、脳由来MPの単離・解析よりも、ミトコンドリア病モデル細胞での解析を優先する。順調に進めば、計画していた(1)脳からのMPの単離法の確立、(2)MPの電顕観察と粒径分布の測定を行う。(3)MPのプロファイリングを実施する。 以上により、新たに提唱されたMPについて生理的・病理的な役割と意義の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:サイブリッド細胞からMPを単離するための培養条件の設定、単離方法の確立に時間を要し、平成29年度に予定していたMPを介した細胞間クロストークの解析に至らなかった。そのため、それらの実験に使用する物品の購入を延期し、次年度使用額が生じた。 使用計画:平成29年度に実施するに至らなかったミトコンドリア病モデル細胞由来MPのプロテオーム解析、MPを介した細胞間クロストーク実験、脳由来MPの単離方法の確立とプロファイリングに使用する研究用試薬などの購入に使用する予定である。
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