研究課題/領域番号 |
17K19674
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
中村 哲也 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座教授 (70265809)
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研究分担者 |
松岡 克善 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座准教授 (40307393) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 腸オルガノイド / 3次元培養 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
本研究では、これまで研究代表者がマウス大腸組織への細胞移植実験研究を展開する過程で、培養小腸細胞を移植すると異所において小腸形質を維持するとの成果から得た着想、すなわち『細胞移植により解剖学的大腸の一部に新規機能を賦与する技術』を確立し検証するものである。具体的には、上皮置換による「ハイブリッド大腸構築」を安定した技術とし、1) 機能欠失・機能獲得大腸上皮化モデルによる大腸疾患解析、2) 大腸上皮の小腸化モデルを用いた小腸機能補完解析、3)大腸上皮の機能改変上皮化による生体応答解析を柱とした研究を展開することを目的として開始した。 平成29年度には以下の成果を得た。1) 新しい大腸上皮傷害マウスモデルの作製では、大腸上皮剥離が致死的とならないための手術技術とマウス術後管理手法を確立し、剥離後の大腸組織が移植細胞生着を許容するものであるための条件を設定した。さらにこの手術条件が、近位・中位・遠位など、異なる大腸領域に応用可能であることを確認した。2) 新規大腸傷害マウスモデルへの細胞移植実験では、蛍光標識した培養腸上皮オルガノイド細胞を1) で作成する新規大腸上皮剥離モデルをレシピエントとし移植することに成功した。この際、浮遊細胞として腸内へ移植する細胞をコラーゲンなど細胞外基質分子と共に注入することで生着向上が得られることなどを明らかにした。さらに本研究では、異なる部位の小腸組織から上皮を培養し、これを近位大腸へ移植することで形成される移植片において、小腸由来の細胞が、移植先の近位大腸の環境においても固有の表現型を維持することを明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の「新しい大腸上皮傷害マウスモデルの作製」研究では、大腸の任意の部位で粘膜傷害を作成し、ここへ培養細胞を生着させうる新規大腸上皮傷害マウスモデルを確立した。マウスの開腹下に、大腸内腔操作を可能とするチューブ挿入の上、致死的とならない大腸上皮剥離技術を開発した。さらに、腸壁の開口部を閉鎖し、閉腹した後の術後管理を工夫し、本手術後のマウスが長期にわたった観察・評価可能となるプロトコールを確立した。また、本法を用いて上皮剥離をおこなった大腸組織が、移植細胞生着を許容するものであることも確認できた。さらに、この手術条件が、近位・中位・遠位など、異なる大腸領域に応用可能であることを確認した。また、新規大腸傷害マウスモデルへの細胞移植実験では、上に記載した新規大腸傷害マウスモデルを用い、これに緑色蛍光蛋白(EGFP)を発現するトランスジェニックマウスから単離培養した腸上皮オルガノイド細胞を移植する実験の条件を設定した。これまでの段階で、浮遊細胞として腸内へ移植する細胞をコラーゲンなど細胞外基質分子と共に注入することで生着向上が得られることなど、新規の知見を見いだした。さらに本研究では、異なる部位の小腸組織から準備し、これを近位大腸へ移植することで形成される移植片において、小腸由来の細胞が、移植先の近位大腸の環境においても固有の表現型を維持するとの興味深いデータが得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、以下の研究を進める予定である。 「大腸上皮の小腸化モデルを用いた小腸機能解析」では、近位・中位・遠位小腸から別に培養した小腸上皮細胞を、近位・遠位の大腸へ移植し、移植片の形態や分子発現の解析により、異所性小腸上皮が示す形質の詳細を明らかにする。また、小腸上皮異所移植片が小腸機能補完作用を獲得するか否かについては、遠位小腸切除による短腸症候群モデルマウスを用い、小腸化大腸による小腸機能補完作用を評価する。 「大腸上皮の機能改変上皮化による生体応答解析」では、さまざまな機能改変腸上皮、あるいは非腸上皮細胞を移植し以下の検討をおこなう。 「局所炎症の大腸粘膜内波及過程の解析」では、遺伝子変異大腸上皮移植がレシピエント個体で局所的腸炎を惹起するかを解析する。また、「限局性に発生する大腸腫瘍と周囲組織との相互作用の解析」では、遺伝子変異大腸腫瘍細胞を大腸粘膜へ移植し、発生する腺腫と周囲の正常組織との相互作用解析をおこなう。「腸上皮の機能改変上皮化による生体応答解析」では、GLP-1を産生する腸内分泌細胞(L細胞)への小腸上皮分化誘導技術を開発し、これによる大腸上皮の置換を試みる。これら操作がインスリン抵抗性の軽減、血糖低下作用に及ぼす影響を、移植細胞の相違、あるいは移植大腸部位の相違と関連づけて解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由: 試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため。 使用計画:検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する予定である。
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