研究課題/領域番号 |
17K19681
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
向田 直史 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (30182067)
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研究分担者 |
馬場 智久 金沢大学, がん進展制御研究所, 准教授 (00452095)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 骨髄異形成症候群 / BCR-ABL / ドナー細胞由来白血病 / 骨髄移植 / 細胞外小胞 |
研究実績の概要 |
白血病の治療として行われる骨髄移植では、X線照射後も残存する白血病幹細胞(LIC)からの再発以外に、移植した正常細胞からの白血病、いわゆるドナー細胞由来白血病(DCL)の発症が、骨髄移植患者の約1%で認められる。DCLは通常の再発白血病に比べて悪性度が高いが、適切な動物モデルがなく、発症機構は不明な点が多い。 本研究計画開始時にBCR-ABL発現LICを接種して、CMLを発症させたマウスが、X線照射・骨髄移植を行った後に、重篤な貧血を発症し、死亡することを見出している。CML発症マウスをCD45.2陽性BALB/cマウス、骨髄移植に用いるドナー・マウスをCD45.1陽性BALB/cマウスとする組み合わせによる検討を行った。その結果、骨髄移植後にはCD45.2陽性のCML細胞が消滅する一方で、血球系細胞はドナー由来のCD45.1陽性細胞に置換され、その後Pseudo-Pelger Huet細胞様の顆粒球が出現するとともに、重篤な貧血を発症し、死に至ることから、骨髄異形成症候群を発症したと考えられた。したがって、この現象はDCLの疾患モデルとして妥当であると考えられた。 一方で、レシピエントCML細胞由来の細胞外小胞がBCR-ABL遺伝子を二本鎖DNAとして大量に含有している可能性が示唆され、この病態が発生する際に、ドナー由来細胞がレシピエント細胞由来のBCR-ABL遺伝子のみならずタンパクも発現していることも明らかとなった。今後は、CML細胞由来の細胞外小胞に含有されているBCR-ABL遺伝子を含む種々の分子の、この病態の形成過程への関与について検討を加える予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CD45.2陽性のBALB/cマウスの骨髄から得られた正常造血幹/前駆細胞(HSPC)に、レトロウイルスベクターを用いてヒトBCR-ABL遺伝子を導入し、白血病幹細胞(LIC)を作製した。LICをX線照射したレシピエントマウスに骨髄移植し、慢性骨髄性白血病(CML)を発症させた後にX線照射し、CD45.1陽性のコンジェニックマウスから採取した骨髄単核球を骨髄移植した。骨髄移植療法後に、末梢血白血球数・脾臓の大きさ・脾臓内のLIC数・残存白血病細胞数・BCR-ABL発現ドナー細胞数などを、経時的に検討した。 その結果、4Gy以下の放射線照射後に骨髄移植を行うと、LICが残存しCMLが再発した一方で、5Gyの放射線照射後に骨髄移植を行うと、LICが根絶し、ドナー由来のCD45.1陽性細胞に血球系細胞に置換されることを確認した。しかし、その後にPseudo-Pelger Huet細胞様の顆粒球が出現するとともに、重篤な貧血が発症し、死に至ることから、骨髄異形成症候群を発症したと考えられた。したがって、この現象のDCLの疾患モデルとしての妥当性の検証という当初の目標は達成されたと考えられる。 さらに、レシピエントCML細胞由来の細胞外小胞がBCR-ABL遺伝子を二本鎖DNAとして大量に含有している可能性が示唆されるうえに、この病態が発生する際に、ドナー由来細胞がレシピエント細胞由来のBCR-ABL遺伝子のみならずタンパクも発現していることも明らかとなった。このことから、レシピエント由来白血病細胞からドナー由来正常血球系細胞へ、細胞外小胞を介した水平伝播が生じている可能性が示唆されるなど、新たな発展につながる研究成果も得られた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討から、研究代表者らのグループが見出した現象は、これまで報告されたことがないDCLの疾患モデルとしての妥当性が明らかになった。 レシピエントCML細胞由来の細胞外小胞がBCR-ABL遺伝子を二本鎖DNAとして大量に含有していて、この病態が発生する際に、ドナー由来細胞がレシピエント細胞由来のBCR-ABL遺伝子のみならずタンパクも発現していることも明らかとなったことから、レシピエント由来白血病細胞からドナー由来正常血球系細胞へ、細胞外小胞を介した水平伝播が生じている可能性も示唆されている。 今後は、細胞外小胞を介した水平伝播の可能性をより詳細に検証する。さらに、水平伝播の存在が確認された場合には、水平伝播にかかわる分子機構ならびに水平伝播後のドナー細胞における変化を、分子レベルで解明する。 これらの点の検討を通して、DCL発症の細胞・分子機構を解明し、現時点では有効な治療・予防法のないDCLに対する治療・予防法の開発のための基盤を形成することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度に予定していた、成果発表を目的とした海外の国際学会への出席が、国内開催の国際学会への出席となり、海外旅費分に相当する額が支出されなかったため、30年度使用額とすることとした。次年度使用額については、成果発表を目的とした海外開催の国際学会への出席のための旅費に充てる予定である。
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