研究課題
血管新生とは、既存の血管から血管が出芽・伸長し新たな血管網を構築する現象である。これまでに、ゼブラフィッシュの蛍光イメージングにより、内腔圧が血管新生を阻害する可能性を示してきた。本研究では、内腔圧による血管新生の新たな制御機構の存在を明らかにし、その分子機構と生理的・病的な血管新生における意義を解明する。以下に平成29年度の研究成果を示す。研究項目1「内腔圧による血管新生過程の血管伸長阻害の証明」 ゼブラフィッシュ成魚皮膚を損傷すると、血流に対して下流側の損傷血管が伸長し、上流側の損傷血管はほとんど伸長しなかったが、上流側血管のさらに上流に損傷を加え内腔圧を解除すると、伸長した。また、マイクロ流体デバイスを用いた血管新生実験により、伸長する血管に内腔圧を負荷すると伸長が抑制された。以上から、内腔圧が血管新生における血管伸長を抑制することが示された。研究項目2「内腔圧が血管新生における血管伸長を制御する分子機構の解明」 ゼブラフィッシュ損傷血管の構造解析およびマイクロ流体デバイスを用いた血管新生実験から、上流血管の先端部は血流に起因する内腔圧により拡張し、内皮細胞に伸展刺激が負荷されていること分かった。また、内皮細胞への伸展刺激が、内皮細胞のアクチン重合を抑制し、細胞移動に必要な前後軸極性の形成を阻害していることが示唆された。以上の結果から、内腔圧は内皮細胞に伸展刺激を負荷することで、アクチン重合と前後軸極性を阻害し、内皮細胞の運動と血管伸長を阻害していることが示唆された。研究項目3「内皮細胞が内腔圧を感知する機構の解明」 これまでの研究から、張力負荷された細胞膜では、BARドメイン含有タンパク質が局在できないために、アクチン重合が阻害されていることが報告されている。現在、BARドメイン含有タンパク質が内腔圧のセンサーとして機能し、血管伸長阻害に関与するか検討している。
2: おおむね順調に進展している
【研究実績の概要】で示したように、平成29年度は当初予定していた計画のほとんどを実施することができた。まず、内腔圧が血管新生における血管伸長を抑制することを明確に証明できた点は評価できる。また、内腔圧が血管新生における血管伸長を抑えるメカニズムについては、当初、静水圧が関与すると考えていたが、当該年度の解析から静水圧よりも内腔圧によって負荷される内皮細胞への伸展刺激が重要であることを発見することができた。それにより、内腔圧による血管新生の制御機構の分子メカニズムの解析を飛躍的に進展させることができた。以上を総合的に考え、「おおむね順調に進展している」との自己評価にした。
平成30年度は、平成29年度の研究成果を踏まえ、内腔圧による内皮細胞への伸展刺激が、内皮細胞のアクチン重合および前後軸極性形成を阻害する分子メカニズムについて精力的に解析し、内腔圧が血管新生を阻害するメカニズムの解明を目指す。それにより、年度の前半までにはプロジェクトを纏め、年度内の論文化を目指す。また、論文作成と平行して、内腔圧により血管新生の制御機構が、生理的および病的な血管新生においてどのような生物学的意義を有するのか研究を進める。
当該研究課題は、研究代表者である日本医科大学の福原と分担研究者である熊本大学の西山功一博士との共同研究により実施している。そのため、当初は研究を円滑に遂行するため、研究打合せを行うための旅費を60万円計上していたが、スカイプミーティングを実施することで旅費を大幅に削減することができた。平成30年度は、平成29年度からの繰越分を研究成果発表の為の費用(論文作成費、学会参加費)に使用する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 2件、 招待講演 12件) 図書 (1件)
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